商品やサービスを押し気味に売るのでなく、自然と売れていく仕組みをつくるのがマーケティングといわれる。それにも流行があり、ひところは〈口コミ〉マーケティングなるものが随分ともてはやされた。広告や宣伝に頼らず、うわさや評判を広げることで顧客を増やす手法である
▼よくできた宣伝を見せられると、うまいことばかり言ってと眉に唾を付けることも多いが、親しい人に聞いた話はほとんど疑わない。歌人の俵万智さんにこんな作品があるのをご存じだろう。〈「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日〉。歌の趣旨は違うものの、人から直接伝えられた情報がどれだけ価値を持つかがよく分かる。そんな人間心理を巧みに利用するのが〈口コミ〉だ
▼この手法は形を変えながら今も続く。よく目にするのが飲食店情報サイトの客による店舗評価である。その日本最大級のサイト「食べログ」の評価を巡り東京地裁が16日、独禁法の禁じる優越的地位の乱用に当たると判断した。焼き肉チェーン経営の「韓流村」が損害賠償を求め、食べログを運営する「カカクコム」を訴えていたのである。不当な評価で客が大量に流出し、売り上げが激減したそうだ。評価の算出手法を変更したのが原因らしい
▼どの点に重みを付けるかで評価はがらりと変わる。中身は公開されないため「この味はダメねと皆が言ったから」と客足は遠のく。口コミを歪めていると思われるのは食べログにとっても不利。逆にあのサイトは信用できないとの口コミが広がろう。評価は透明にした方がいい。