事前予告なしの仕事切り、赤字受注の強制、請負代金の不払い―。どこの業界でも聞く下請け残酷物語の典型例である。ひところに比べればずいぶん良くなったとはいえ、すっかりなくなったとはまだまだ言い難い。それがよく分かる指標の一つは賃金だろう
▼国土交通省の2020年度〈下請け取引等実態調査〉によると、技能労働者の賃金水準は下請けの階層が低くなるほど、引き上げた会社も減る傾向にあった。「引き上げた」と回答した会社の率は階層別に、元請け79.4%、1次下請け80.1%、2次下請け77.5%、3次下請け以降64.6%。3次下請け以降の低さが目立つ。適切な請負額を受け取っていない可能性が高い。一概には言えないものの、そういった会社の労働者は、技能もモラルも低くなりがちだ
▼全市民の個人情報が入ったUSBメモリーを紛失した兵庫県尼崎市の事件も同根でないか。なくしたのは市から仕事を受注した元請けの協力会社が、さらに委託した先の会社の社員だった。少々込み入っているが要は孫請けである。意識の低い社員が46万人の個人情報入りUSBを持ち歩き、泥酔して路上で寝込んだ揚げ句、カバンごとなくしたというのだから開いた口がふさがらない
▼しかも元請け会社は市に、協力会社も再委託先の会社の存在も知らせていなかったそうだ。お粗末である。請負額も業務に見合ったものになっていたのかどうか。精度の高い仕事には専門の下請けが欠かせない。不公平な関係を改め業界全体の底上げを図らねば似たような不祥事は何度でも起きよう。