日本には独特な平和観があるとよくいわれる。国際問題は全て話し合いで解決できる、武器を持たなければ攻撃されない―。そんな理想主義的な信念だ
▼作家の曽野綾子さんがエッセイ集『戦争を知っていてよかった』(新潮文庫)にこう記していた。「『平和にしよう』と言えば相手もその気になり、結果的に自分も死ななくて済む、というシナリオを前提にしているのは、世界的に見ても珍しい甘い文化である」。ロシアのウクライナ侵略でウクライナの責任を問い、抵抗の停止を声高に訴える政治家や識者が後を絶たないのも同じ理由だろう。「針の穴から天をのぞく」の例えもある。世界的に見て甘い理想主義の穴からウクライナをのぞいている
▼ロシアが27日、両軍がにらみ合うウクライナ東部でなく、中部ポルタワ州のショッピングセンターにミサイルを撃ち込んだ。少なくとも16人が死亡、けが人も大勢出ているという。非戦闘地域の民間施設へのこの非道。理想主義の入り込む余地はどこにもない。BBCの報道によるとゼレンスキー大統領は、「欧州の歴史上、最も恥ずべきテロ行為」とロシアを非難したそうだ。大げさな表現とはいえまい。侵略当初の住民虐殺といい今回といい、ロシアの残虐さは度を超えている
▼思えば先の大戦時、不可侵条約を一方的に破りわが国に踏み込んできたのがソ連だった。ロシアの精神性を最もよく知るのが日本だったはず。ソ連に回帰したかのようなプーチン大統領に甘い幻想を抱くのは危険である。平和のためにこそ今はウクライナの戦いを支持したい。