幕末の歌人橘曙覧(たちばなのあけみ)は日常の何気ない暮らしの中にある小さな出来事や風景に、生きる喜びを見いだしていた。全て「たのしみは―」で始まる52首の歌を集めた『独楽吟』は、現代人のわれわれが読んでも味わい深い
▼例えばこんな一首があった。「たのしみはあき米櫃に米いでき今一月はよしといふとき」。米が手に入って食べる物がない苦しみから解放されたとき、本当にうれしかったようだ。これも実感がこもっている。「たのしみはふと見てほしくおもふ物辛くはかりて手にいれしとき」。ひと目ぼれしたがお金はない。爪に火をともすようにためてようやく買えたのである。食うに困らない、欲しいものが買える家計は、幸せに生きる上で欠かせない人生の土台だろう
▼そんな土台を揺るがす昨今の物価高騰への危機感の表れに違いない。参院選が自民党の大勝で終わった。自民党の掲げる積極財政や成長戦略を引き続き支持する人が多く、財政引き締めを訴えた野党は票を落とした。本道も定数3を自民の長谷川岳、船橋利実両氏と立憲民主党の徳永エリ氏で埋め、全国の形勢と結果を同じくした。参院は良識の府とも呼ばれる。物価高、円安、安全保障、新型コロナと国難に次ぐ国難の時期。選挙が終わったからには与野党の垣根を越えて、共に国民のために働いてもらいたい
▼「たのしみは妻子むつまじくうちつどい頭ならべて物を食ふ時」。つまりは皆、平穏無事に暮らしたいだけなのだ。ただ、それが今の日本では何より難しい。政治家の方々は実感できているだろうか。