映写幕使わず映像を表現
微細なミストの超音波噴霧技術を持つメーカーがイベント演出に参入している。噴霧を制御しながらプロジェクターの映像やレーザー光をミストへ投射し、映写幕を使わずに映像を表現できる空間を創出。ミストの原料は水だけのため、これまで舞台演出などに用いられている煙やドライアイスと異なり事故や健康被害を起こしにくい。首都圏を中心にさまざまなイベントで導入が進む。
超音波噴霧に特化した事業を手掛ける星光技研(本社・長野)は、粒子径が4、5μmとなる噴霧技術を持ち、薬液専用超音波噴霧器は国内トップシェアを占める。しかし、加湿や空間除菌関係だけではビジネスに限界があるとして開発したのが、板状に噴霧したミストに映像を投影できる「ミストスクリーン」だ。長野高専生のアイデアで2017年に開発した。
ミストはあらゆる方向へ舞い上がるため、開発過程では板状に吹くよう制御するのに苦心した。そこでミストの前後を挟み込むように送風する装置を追加。安定した噴霧に成功した。
機器を地面に置いて霧を吹き上げるブローアップ型、頭上に設置し霧を吹き下ろすことでスクリーンの中を通り抜けられるブローダウン型があり、首都圏を中心とした全国各地のイベントや舞台、ショールームの演出として受注を広げる。
新商品として機器を縦型にした横吹きタイプをこのほど開発。機器が足元や頭上を遮らないため、映像が空中に浮いているような演出が可能となった。
大手も演出用途への展開に意欲的だ。パナソニックは加湿や暑熱対策などに生かしてきた「シルキーファインミスト」の技術を応用。粒径が演出用スモークと同程度の約6μmとなるミストで平面や立体の投影空間を作り出し、プロジェクションによる没入体験を提供する。事業開発センターの尾形雄司ミスト事業推進室長は「防災訓練で炎の映像を演出すれば、安全に臨場感ある訓練ができるのでは」と提案する。
熱が発生しない超音波で水を噴霧させるため人体に害を与えず、ミストが極めて微細のため、すぐに気化して周囲を湿らせることがない。スモーク用液剤やドライアイスのような特別な材料が必要なく、演出コスト抑制や事故リスク低減に資する。アイデア次第で空間にさまざまな価値を与えられそうだ。