市場で繰り広げられる激しいシェア争いを表す言葉に「パイの奪い合い」がある。焼き菓子のパイは昔ながらの丸形を思い浮かべた方がイメージをつかみやすかろう。「源氏パイ」(三立製菓)のようなハート型では話が分かりにくい
▼その丸いパイを切り分けるとき、大きなピースを手にした者が勝ちというわけだ。例えば一つのパイを10社で分け合う場合、1社が5割を確保したら残りを9社で分けることになる。パイ、つまりは市場規模が十分に大きければいいが、小さいと市場から落ちこぼれる会社も出てこよう。業界全体の発展のためには市場規模を拡大する工夫も必要になる。ところで今はもっと身近なところに、このパイの奪い合いと似た現象が見られる。会社の賃金がそれだ
▼厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会が1日、2022年度の最低賃金を全国平均で31円引き上げることを決めた。物価上昇に見合った賃金見直しは社会的要請とはいえ、余裕で上げられる会社はそう多くあるまい。経済が成長を続け、企業業績も伸びている状況ならどこからも異論は出ないだろう。ただ、今は売り上げのパイを年々縮ませている会社も少なくない。コストを吸収できる内部留保をどっさり抱える大手ばかりではないのである
▼最低賃金を上げた結果、熟練の技や経験を持つ社員と新入社員の給与差がなくなる会社も出ていると聞く。縮んだパイを分け合うのだから当然だ。それでは全体の士気も下がる。政府には経済成長と社会負担の軽減に本腰を入れてもらいたい。民間に強いるだけでなく。