作家の椎名誠といえば大酒飲みで知られる。仲間と酒を酌み交わす旅エッセー「怪しい探検隊」シリーズを愛読していた人もいよう
▼そんな椎名さん、昔は飲めない男を軽蔑していたらしい。「つまんないと思うもんなあ。そういうのとはあんまり夜まで話したくないですね。だって、たとえば、スパゲティー食べながら大の男がペチャクチャ話せないですよ」。対談集『ホネのような話』(東京書籍)で語っていた。椎名さんは1944年生まれ。ざっくりとだが70年代生まれの人くらいまでは、飲めない男を若干見下すその態度にさほど違和感がないのでないか。ただ、今の若者は違う。最も嫌うのが、話をするときに必ず酒の場を用意したがるおじさんの習慣なのである
▼国税庁が若年層へ日本産酒類の売り上げ拡大を図ろうと、当の若者たちにビジネスプランを考えてもらうコンテスト「サケビバ!」を実施中と聞き、先の話を思い出した。守りの堅い城の内部の者に自ら門を開けてもらおうというわけだ。国税庁によると成人一人当たりの酒類消費数量は92年に102㍑だったのが2020年には75㍑にまで減っている。少子高齢化で成人人口の伸びが頭打ちした上、若者が酒を飲まなくなった点が大きい。今の若者は仲間同士なら、お供がスパゲティやジュースでも話ができるのだ
▼国税庁は酒類業界活性化が目的と立派な看板を掲げるが、落ち込む一方の酒税収入を挽回するため利用されているのに気づかぬ若者はいまい。プランの応募期限は9月9日。さて、国税庁は祝杯を挙げられるだろうか。