全国各地に伝承が残る妖怪の一つに「大入道」がある。大きな僧の姿をしていたり、巨大な影だったりと形も振る舞いもさまざまだが、見た人がびっくりして逃げ出す点は変わらない
▼『日本妖怪大事典』(水木しげる画、角川文庫)によると本道でも嘉永年間に、支笏湖畔のアイヌ集落に現れたとの言い伝えがあるそうだ。人を見ると大きな目玉でにらみつけ、にらまれた人は気が触れたようになり卒倒したという。伝承はいろいろで、中には勇ある者が退治に向かう話もある。恐れを持たず大入道に迫り、正体を暴いてみればキツネやタヌキの類い。まんまとだまされていたわけだ。並外れて大きなものは怖い。妖怪は人間心理をよく分かっている
▼こちらもどこかキツネにつままれたような話でないか。新型コロナウイルス第7波による愛知県の死者数は8月15日までに235人を数えたが、コロナが直接の原因で死亡した人は一人もいなかったというのである。愛知県の大村秀章知事が先週、明らかにした。持病の悪化や高齢による衰弱で死亡した後、念のため検査してみると陽性だったケースばかりだという。陽性反応が出た場合は全てコロナ死にカウントするよう国が定めているため、こんな実態を反映しない数字になるのだとか。愛知だけのことではあるまい
▼第7波では死亡する人が多いと連日報道されるが何のことはない、国が大入道をのさばらせていたわけだ。大村知事は国に死亡者数の定義の見直しなどを要請した。いつまでも大入道を怖がってはいられない。正体を知るべきときだろう。