縁食

2022年08月29日 09時00分

 本道出身の小説家小路幸也さんの人気作『東京バンドワゴン』(集英社)シリーズは、東京の下町で古本屋を営む大家族堀田家の周りで起こるいろいろな出来事を人情味たっぷりに描く

 ▼作品で毎回必ず描かれる名物場面に、大きな食卓を皆で囲んでの食事風景がある。そこでは家族の予定から近所のうわさ、抱えている問題、果ては「焼海苔にかけちまったぜソース」といった嘆きまで、さまざまな話題が飛び交う。それもこれも家訓に〈食事は家族揃って賑やかに行うべし〉とあるためで、家族一同それを楽しく実践しているのである。かつては当たり前にあったものの、核家族が多い現代ではなかなか見られなくなった風景だろう

 ▼今は逆に「孤食」化が進んでいるとされる。その名の通り一人ぼっちで食べることだが、形は一様でない。近頃は全員が一つ屋根の下に暮らしていても、仕事や塾、趣味などで時間が合わず、食事はそれぞれ別に取る家庭も増えた。1人暮らしの若者や高齢者はもちろんである。気楽な一面はあるものの、精神的に孤立を深めることも少なくない。藤原辰史京大准教授はそんな孤食と大勢での食事の間を埋めるものとして「縁食」を提唱してきた。子ども食堂や炊き出しなど人々が緩やかにつながる食事形態である

 ▼ところがコロナ禍で真っ先に動きを止められたのがこの縁食だったという。気軽に集まれないのだからどうしようもない。逃げ場を求めていた人、かろうじて孤立を免れていた人が行き場を失った。縁をつなぐ最後のとりでまで壊す。なんと悪質なウイルスか。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 北海道水替事業協同組合
  • 東宏
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,443)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,259)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,173)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,101)
函館開建が国道5号の常盤川交差部に橋梁新設の可能性...
2024年04月17日 (783)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。