人気商品を生み出すデザイン会社のノウハウをひもとく『発想する会社!』(早川書房)に、店に多くの客を集めるためのこんなヒントが記されていた。「目標は店舗をより素敵にすることではない。買い物という経験をよりすばらしいものにすることだ」
▼示されている例の一つは米国シアトルの、ある魚市場だ。そこでは客がサーモンを注文すると、店員の一人が5㌔もの魚を6mほど先の別の店員に放り投げる。アメリカンフットボールさながらガッチリ魚を受け止めた店員は、箱詰めにして客に商品を渡す。見事な離れ技に店内の人々は皆大喜び。必然性のない行為に当初は批判もあったようだが、始めてから市場の売り上げは大幅に伸びたという
▼目標を明確に定め、またとない経験を提供したことが成功につながった。こちらも同じだろう。石川県能登町が昨年4月、観光交流施設「イカの駅つくモール」に設置した巨大イカ像「イカキング」の話である。制作費を上回る経済効果が現れているそうだ。全長13m、高さ4mというから大型トラックくらいある。新型コロナ交付金2700万円で作ったため内外から批判も浴びたが、町は収束後も見据えた観光振興が目標と説明してきた
▼狙いは当たり客は引きも切らず。町がきのう経済効果を発表。県内波及額は6億円、宣伝効果は18億円に上った。先の本は教える。「オフィスにこもっていては、よりすばらしい経験を提供するためのアイデアなど得られない」。オフィスにこもって文句を言う外野に負けず、地域資源を生かした町の勝利である。