道北に風力専用送電網 北海道北部風力送電が整備

2022年09月09日 08時00分

道内の陸上風力、連携容量倍増へ

北豊富変電所内に並ぶ蓄電池棟。右後方に新設した鉄塔と送電線が連なり、左後方には建設中の風力発電所がある

 2023年4月、風力発電専用の新たな送電網が道北で商用運転を始める。道内の陸上風力連系容量は25年にかけて倍増する見込みだ。整備したのはユーラスエナジーホールディングス(本社・東京)の子会社、北海道北部風力送電(同・稚内)。非大手電力系による送電網整備は全国的にも異例だ。風力発電の自然変動には、出力抑制技術と世界最大級の蓄電池で対応する。他社が撤退する中での事業継続には地元企業の役割も大きかった。

 資源エネルギー庁は13年、風力発電の導入拡大を目的に送電網強化の実証事業を北海道と東北で開始。北海道北部風力送電ほか3社が参加事業者に採択された。道内では風力発電の適地ながら送電網が弱い北部地域が対象とされた。

 同社は現地調査や用地取得を経て18年に着工し、ほとんどの設備が完成した。送電線は北海道電力ネットワークの西中川変電所(中川町)から北上し、北豊富変電所で二手に分かれて豊富町と稚内市の開閉所へ至る。全長80km、鉄塔169基の規模だ。事業費1000億円のうち国から総額435億円の補助を受け、残りは同社が負担した。

吉村社長

 新しい送電網はいわば「風力発電用バイパス」(吉村知己社長)だ。ユーラス、コスモエコパワー(本社・東京)、LoooP(同)の3社が計画する風力発電所9カ所が23年から25年にかけて順次連系する。連系容量54万kW、うち大半の45万kWをユーラスが107基の風車で確保。道内の風力発電導入量は58万kW(22年4月末現在)から倍増する見込みだ。

 風況による出力変動は系統の安定性に影響する。北豊富変電所では各発電所へと公平に出力抑制を指令する技術を取り入れた。指令を受けた風車は羽根の角度を変えて回転数を調整する仕組みだ。

 併せて容量72万kW時と世界最大級の大規模蓄電池を北豊富変電所に設置した。45×20mの建屋2棟にGSユアサ(本社・京都)のリチウムイオン電池がびっしりと並び、エネルギーマネジメントシステムで充放電を指示する。CO₂消火装置を備える建屋は複数の防火区画に分けられ、各部品でも難燃対策も徹底した。資源エネルギー庁の担当者は「一連の技術実証は風力発電の普及に向けて必要だ」と今後の広範な活用を期待する。

 実証事業には他に道内で1社、東北で2社が採択されたが既に撤退。着工に至ったのは北海道北部風力送電だけだ。理由の一つに送電網整備の巨額コストがある。送電網と歩調を合わせて発電所を運用し、利用料金を払ってくれる事業者の確保は簡単ではない。その点、同社の事業では親会社のユーラスが連系発電所の大多数を建てるため発送電の協力がスムーズだった。

 建設用地の提供と確保協力に携わった地元企業、稚内グリーンファクトリー(本社・稚内)の役割も大きい。同社は酪農作業の受託を主事業とし、地元関係者との信頼関係を築いてきた。送電線や発電所を整備する上で地元との調整を進め、多くの農家から事業全般に協力を得られたという。

 北豊富変電所は8月末、西中川変電所からの受電に成功した。吉村社長は「変電所として一つの大きなマイルストーンだ」と意義を強調する。23年からの商用運転では発電事業者の利用料金を収入として20年単位で投資回収、株主への利益還元を進める考えだ。

 非大手電力系が送電網と風力発電を大規模開発した点で、異例な取り組みといえるこの事業。背景には、豊かな再エネに比べて電力系統が脆弱(ぜいじゃく)だという道内の現状がある。北海道が今後再エネで国内の脱炭素をリードするには、公的支援を伴う道内の送電インフラ整備が長期的に必要だ。


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