自動車の運転免許を取って少し経ったころの話である。原動機付自転車(原付)も乗れるというので、先輩の原付で練習させてもらうことにした。忘れもしない。大学の学生会館横の構内道路だった
▼「簡単、簡単」と先輩は言う。左手のクラッチを離しながら、右手のスロットルをゆっくり開けていけばいい。一通り操作を習い、いざ発進。手順通りにしたはずなのだがエンジンはうなりを上げ、前輪が高く浮いた。いわゆるウイリー状態のまま猛ダッシュである。パニックに陥っているのだろう。スロットルを戻せばいいだけなのに、頭が真っ白でとっさには何もできない。かろうじてブレーキを踏めて事なきを得たが、ひどく怖い思いをした
▼森町で18日開かれたレンタルカートの体験会で、不幸にも見物客に突っ込んでしまった11歳の少女も、やはり怖い思いをしたに違いない。ピットに戻るカーブの手前でブレーキとアクセルを踏み違え、時速40㌔ほどのスピードで直進してコース外に飛び出したそうだ。この事故で見物客の中にいた2歳の子どもがはねられ、亡くなった。悲劇というほかない。当日は駐車場に特設コースを作っていたと聞く。ただ事故現場には、カートから見物客を確実に保護できる有効なバリアもクッションもなかったらしい。主催者と運営の手落ちでないか
▼原付くらいでもそうなのだ。初めての体験で思わぬ事態が起きれば大人でも冷静に対処するのは難しい。少女ならなおのこと、とっさの危険回避などできるはずもなかったろう。亡くなった子どもも少女も被害者である。