ロシアが2014年、ウクライナ領土だったクリミア半島を一方的に併合したとき、国際社会ではこんな言説がしきりに語られた。「ロシアはクリミアを得て、ウクライナを失った」
▼プーチン大統領が自国民保護という偽りの錦の御旗を掲げ、謀略と脅しでウクライナ領土を切り取り始めた最初期の出来事に対する評価である。『ゴルバチョフが語る 冷戦終結の真実と21世紀の危機』(NHK出版新書)に詳しい。そのクリミアが再び大きな惨事の火種になった。クリミア半島とロシアを結ぶ唯一の橋が8日、爆発して一部崩落。それをウクライナの仕業と見たプーチン氏が10日朝、首都キーウやリビウなど複数の都市をミサイルで攻撃したのである
▼75発が発射され、少なくとも14人が死亡。多数の負傷者が出た。通勤通学の時間帯を狙われたため、一般の人が数多く犠牲になったという。プーチン氏は同日のテレビ演説で、ウクライナがロシアに対して実行したテロへの報復だと語ったそうだ。正気を疑う。「盗人猛々しい」とはまさにこのことだろう。前回同様ロシア系住民保護の名目で侵略を始め、おびただしい数の民間施設破壊や住民虐殺に手を染めてきたのは当のプーチン氏の方ではないか
▼今回もミサイル攻撃の目標は軍事拠点やインフラ施設だと説明しながら、現地からの映像を見ると実際は公園や街中の道路、民間施設ばかり。イソップ物語のオオカミ少年だって、もっと上手にうそをつく。国際社会の非難はこれまで以上に高まっている。ロシアはウクライナのみならず、世界も失った。