旅を題材にした歌といえばいろいろ思い浮かぶが、中でもジェリー藤尾さんの『遠くへ行きたい』(永六輔作詞、中村八大作曲)はスタンダードと呼ぶべき一曲だろう
▼「知らない街を 歩いてみたい どこか遠くへ 行きたい 知らない海を ながめてみたい どこか遠くへ 行きたい 遠い街 遠い海 夢はるか 一人旅」。哀愁を帯びたメロディーと歌詞に、日常を離れてさすらう旅への思いがかき立てられる。小説家の宇佐美りんさんもエッセー「旅の病」にこう記していた。旅とは「物理的な距離ではない。求めているのは心理的な遠さである。『ここではないどこか』に行きたいのである」。いつもの生活とはかけ離れた体験を楽しむ。それが旅の醍醐味(だいごみ)に違いない
▼政府が観光をてこに地域経済の活性化を狙う「全国旅行支援」がおととい始まった。コロナ禍でたまっていた人々の「遠くへ行きたい」欲求を早速刺激しているようだ。人気観光地の宿泊予約は早くもパンク状態だという。旅行代金の40%が割り引かれ、お土産の購入などに使えるクーポンも受け取れるとなれば、心が動かされるのも当たり前か。利用するにはワクチン接種か陰性結果の証明が必要とはいえ、接種率の高い日本ではほとんど障害になるまい
▼旅先では景勝地を巡るばかりでなく、その地域で頑張っている商店街や個性あふれる店を訪れてみるのも一興である。支援の本来の目的である地域経済の活性化にも大いに役立とう。それまでの人生で知らなかった素敵な人や物との出会いがあるから旅は面白い。