まだ世の中のことはよく分かっていなかったが、子どもながらに「こんな人いるわけない」とあきれた童話があった。アンデルセンの『裸の王様』である。愚か者には見えない衣で織られた最高級の服という詐欺師の言葉を信じ、裸で街を練り歩いた王様の話だった
▼どう見ても何も着ていないのに、街頭に並ぶ国民は誰一人、王様が裸だと指摘しない。童話だとしてもさすがに、設定に無理があると考えたのである。ところがそうではなかった。大人になってみると世の中には案外「裸の王様」がたくさんいたのである。権力に酔う余り、自分の実像も、人からどう思われているかも分からなくなっている者たちだ。この人物もその一人でないか
▼中国の習近平国家主席である。16日に開会した中国共産党第20回大会で自らの実績を誇示し、権力をさらに集中させる方針を打ち出したそうだ。党の憲法とされる党規約に習氏への忠誠を求める文言を明記。台湾統一に向け、武力行使を辞さないとの姿勢も強調した。米国シンクタンク「ピュー・リサーチ・センター」が先月末発表した調査が興味深い。習政権の中国に対する各国の印象である。2021年時点で好意的に捉えていたのは米国人16%、日本人12%、オーストラリア人14%といった具合。欧州も軒並み10―20%台だ
▼習氏が政権に就く前は40―50%だったのに、低下が著しい。国内外での強権的振る舞いを脅威と感じる人が増えたのである。それでもなお習氏は自身の「王様」化をやめるつもりはなさそうだ。「裸だ!」の声は高まっているのだが。