韓国の首都ソウルの繁華街「梨泰院(イテウォン)」で10月29日に起きた事故の一報を聞いたときには耳を疑った。坂道の路地で群衆が転倒し、150人以上もの若者らが圧死したというのである。ハロウィーンが近いとあって、多くの人が詰め掛けていたという
▼現場は接している他の道より狭く、傾斜も不規則。いわゆるボトルネックで、人が滞留しやすい環境だったらしい。そこに「群衆雪崩」が発生したのだ。実に痛ましい。前途ある若者が大勢命を落とした。当時の具体状況はまだ分からないものの、何かをきっかけに均衡が崩れ、そこに次々と人が倒れ込んだとみられる。狭い空間で極度に密着した集団は一体化し、個人の自由を奪う。巻き込まれた人はどれだけ怖かったか
▼大小の違いはあれど、同様の事故は決して珍しいわけではない。日本でもあった。世界的にはイスラム教の聖地メッカ近郊の「ミナの谷」で2015年、儀式に訪れていた巡礼者700人以上がやはり群衆雪崩で圧死している。梨泰院は以前から名所の一つ。近年はここを舞台にした韓国ドラマの影響で人気に拍車が掛かっていたそうだ。ハロウィーンに加え、日本でいう「聖地巡り」の対象にもなっていたのである。人が殺到しないわけはない。コロナの行動制限がない久々のイベントゆえの開放感も人出を促した
▼悔やまれるのは安全対策。本来は明確な動線確保と人流制御、人数制限が不可欠だが、警備も誘導も足りなかったと聞く。防げない事故ではなかったろう。家族や友人を失った方々の悲しみはいかばかりか。