全国で唯一の建設関係総合図書館「建設産業図書館」が開設20周年を迎えた。専門書のみならず、企業・団体の記念誌や小説、絵本などの文学作品、安全啓発の視聴覚メディアといった建設に関する幅広い資料を所蔵。建設産業の「知」を結集した文化拠点として業界関係者らに支持されている。
東日本建設業保証(本社・東京)が運営する私設専門図書館。東京都中央区築地の浜離宮建設プラザ1階にあり、所蔵資料が土木、建築のどちらにも偏らないのが特徴だ。資料登録数は2021年度末時点で6万1813点に上り、オンライン蔵書目録(OPAC)でインターネット上の蔵書検索に対応。建設業従事者に限らず一般市民へ開放し、公共図書館と同様に無料で利用できる。
来館者の8割は企業が占め、残りは法律事務所やコンサル、学生など。徐々に利用者数が増え、19年度は年間4617人に上った。20年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で2759人に落ち込んだが、21年度は3018人へ回復。利用形態は来館65%、宅配35%という割合だ。
開設のきっかけは、1995年に旧建設省が策定した「建設産業の構造改善戦略プログラム」で提唱された「建設関連総合図書館構想の推進」。それ以前から土木学会や建築学会などの専門図書館が存在していたものの分野別、構造別に細分化されていた。
公共工事の前払い金保証を手掛ける東日本建設業保証は建設関連の総合図書館の整備で建設企業に還元しようと、創立50周年を迎えた02年11月1日に建設産業図書館を開設。構想には建設文化研究所を主宰した建設産業研究者の故・菊岡倶也氏が協力し、06年に死去するまで初代館長を務めた。
また、建設関連総合図書館構想推進を提唱した一人の故・古川修京大名誉教授が自身の蔵書一式を寄贈。「古川修文庫」として公開した。同館は11月からの20周年記念事業として、両氏に関する展示を催している。
社史、団体史、伝記、名簿、統計、文学作品といった社会・人文科学的に建設業界を把握できる資料を重点に収集してきた。北海道建設業協会の記念誌など道内関係資料も所蔵。特に社史、団体史の収集に力を入れていて、広く寄贈を呼び掛けている。
東日本を中心とした各地の業界紙も閲覧可能。飲料販売業の来館者があり、紙面の入札情報で今後の稼働工事を調べて自動販売機の配置計画を練るという活用方法があったという。
安全衛生教育などの視聴覚資料も充実。安全大会のシーズンは貸し出し申し込みが相次ぐ人気コンテンツだ。
購入や寄贈で毎年千数百点の新規資料を登録し、総所蔵量は収蔵容量の約8割に達した。今後は役割を終えた資料の廃棄も視野に、蔵書の新陳代謝を図る。
同館学芸員の江口知秀さんは、昭和初期の資料集覧や新聞縮刷版といった貴重なコレクションを誇る。「当館は壮年期に入りつつある。その知識と経験を保ちながら、さらに10年、20年と利用してもらえるようにしたい」と意気込む。