大規模オフィス呼び込む 手厚い交付金など「いまが攻め時」
一大プロジェクト「天神ビッグバン」など、再開発を起爆剤としたまちづくりを推進する福岡市。増え続けるオフィス面積だが、本社や大規模オフィスをメインターゲットとした企業誘致を並行させることで経済活性化を図っている。手厚い交付金や民間企業を巻き込んだ協議会による意思統一など、同市の誘致策を取材した。(経済産業部・宮崎嵩大記者)
「いまが企業誘致の攻め時」―。福岡市東京事務所で企業誘致を担当する榊原英明次長は、国内企業がコロナ禍で地方分散を進め、外国企業は円安で進出コストが割安となる現状をこう捉える。2013年度から21年度まで、同市が関与した進出企業数は9年連続で50社を突破。21年度は過去最高の64社、新規雇用者2600人に上った。
オフィス仲介の三幸エステートの調査によると、21年に成約面積8万1974坪、新規供給面積3万900坪を記録し、どちらも過去10年間で最大規模となった。再開発によるオフィスビル大規模化が背景にあり、同社の中村竜治福岡支店長は「分散する拠点を市内中心部に集約する新たなオフィスニーズが生まれた」と説明する。コールセンター業界では空室率が低い札幌市への進出を断念し、福岡市に拠点を設置する動きもあるという。
福岡市のメインターゲットは〝大規模拠点〟だ。道内の企業誘致では、ワーケーションやサテライトオフィスなど小口の進出から本社移転や大規模オフィス開設につなげてもらう手法が主だが、同市は1社による効果が大きい大規模拠点の誘致に力と資金を注ぐ。
10月からは、オフィス賃料や雇用に対する助成を従来の2倍にする大胆な交付金制度改正を施行。延べ1000m²、常用雇用40人以上の本社機能の場合、賃料への交付金は年間賃借額の4分の1を2回で最大2億円、雇用への交付金は福岡市民の正社員1人につき100万円、最大2億円の計4億円を補助する。国内初進出の外国・外資系企業の場合、これに加えて市場調査、通訳、拠点設立経費などとして最大300万円を交付する。
IT、医療・福祉、エネルギー関連産業の研究開発用オフィスの誘致についても拡充。延べ200m²、常用雇用10人以上の大規模オフィスの場合、賃料と雇用に対し最大1億円ずつ計2億円を交付する。
札幌市より高水準の交付額だが、榊原次長は「誘致が進めば経済的に元気な状況をアピールでき、次の誘致につながる」とし、企業進出による市のブランド力向上の重要性を述べる。
20年9月には国際金融機能を誘致する「TEAM FUKUOKA」を設立し、海外のフィンテックや資産運用会社などの誘致にも取り組む。
チームには福岡市のほか、地元の金融機関、エネルギー企業、デベロッパーなどが参画。高度な外国人材に対応したレジデンス、最先端オフィスビルの開発などのほか、税制や在留資格の緩和、英語対応専門士業の確保、福岡空港の国際路線機能強化など、それぞれが国際金融機能誘致を念頭に置いた事業活動を進めている。結果、2年間で14社の誘致に成功した。
豊富な人材も魅力の一つだ。政令指定都市の中で10―20代の若者の人口比率がトップ。11年の九州新幹線全線開通を追い風に、九州内の若年層が転入してきていることも大きい。
札幌市も人件費やオフィス賃料などのコストが首都圏より低いことに加え、30年度の北海道新幹線札幌延伸が控える。7月に設立した企業誘致組織「大札新パートナーズ」の活動や、23年度以降の企業誘致交付金拡充の検討も進んでいて、福岡市に続く発展に期待がかかる。