藤子・F・不二雄さんの人気漫画『ドラえもん』には独特な個性を持った脇役がよく登場する。昭和の頑固親父を煮詰めて作ったようなおじいさん「神成(かみなり)」さんもその一人だろう。のび太たちがいつも遊ぶ空き地の隣に住んでいる人物である
▼野球をしているとたまに神成さんの家にボールが飛び込み、大事にしている盆栽を壊してしまう。そうなるとさあ大変。烈火のごとく怒りもう手が付けられない。とはいえ丹精込めて育てた盆栽が壊されたのでは、大きな声が出るのも当たり前。神成さんは異様なくらい激烈に怒る一方で、正直に謝りに来れば許してあげる寛容さも持ち合わせていた。根は優しい人なのに違いない
▼こちらの令和のおじいさんはどうだったのか。いささか考えさせられる出来事である。長野市内の公園「青木島遊園地」が、近所に住む一人の男性のクレームで今月から閉鎖されることに決まったそうだ。市には「子どもの声がうるさい」と再三、苦情が伝えられていたらしい。報道によると公園の周りには小学校や学童保育施設もあり、安心して遊ばせられる環境だったという。2004年に子どもたちの遊ぶ場所がほしいとの住民要望で整備されたのだとか。子どもが大勢集まれば騒がしくもなる
▼市は入り口を変えるなど工夫をし、男性と話し合いを重ねたもののらちが明かず、ついにさじを投げた。無理が通れば道理が引っ込むで、高齢者の苦情は通っても子どもの声なき声は聴かれないまま。現代の縮図である。昭和の神成さんならこうはならなかったのでないか。