だいぶ前の話になるが、道東の釧路川で何度かカヌーツアーを楽しんだことがある。仲間とオープンデッキのカナディアンカヌーに乗り、源流の屈斜路湖から釧路湿原まで下ったのだった
▼大自然の中、透き通った水の上を滑らかに走る爽快感といったらない。醍醐味(だいごみ)の一つが瀬と呼ばれる急流を必死に乗り越えることである。流れが速い上に、隠れた岩や浅瀬が複雑に入り組んで簡単には通過できない。実は瀬にもルートがある。右岸側から入って真ん中の岩を回り込み、いったん左岸側に逃げてまた中央へといった具合。やみくもに突入すると流れにのまれて沈没しかねない。瀬を越えるまでは一心不乱にパドルを動かし、ルートを外れないよう頑張るのである
▼京都府亀岡市で28日発生した「保津川下り」の遊覧船転覆事故の報を聞き、以前経験したカヌーツアーを思い出した。事故では観光客25人と船頭4人の全員が川に投げ出され、船頭1人が死亡、もう1人が行方不明になっているという。現場は「大高瀬」と呼ばれ、乗客が急流越えのスリルを楽しめる所だったそうだ。ところが舟の後方にいた船頭が水をかこうとしてかじを空振り。舟は制御を失ってコースを外れ岩に乗り上げたらしい
▼当方も釧路川下りで1回目は瀬を越えられたものの、2回目は高波に襲われて沈没した。水量が減って流れが激しくなっていたのである。川の表情は毎日違う。保津川下りの船頭もベテランだったというから、それは重々分かっていたはず。一瞬の油断だったのだろう。自然はときに容赦がない。