シンガーソングライターの中島みゆきさんが、ロックグループ「TOKIO」に提供してヒットした楽曲に『宙船』がある。みゆきさんならではのメッセージ性の高い歌詞だった
▼歌い出しのこの一節に胸を打たれた人も多いに違いない。「その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ お前が消えて喜ぶ者に お前のオールをまかせるな」。人生の主導権を他人に、とりわけ自分に害なす者に渡すなというのである。人の生き方について助言をする歌だが、企業や国にも同じことがいえるのでないか。中国が電気自動車(EV)などに必要なレアアースを使った高性能磁石技術を禁輸する方向で検討に入ったとの報を聞き、先の歌を思い出した。この技術はもともと日本が持っていたのである
▼日本のメーカーがレアアースを求めて中国で合弁企業をつくり、磁石の製造技術も教えた結果、物量で上回る中国にシェアをそっくり持っていかれたのだ。「ひさしを貸して母屋を取られる」のことわざそのままである。同様のケースは初めてではない。太陽光発電パネルや新幹線に代表される高速鉄道の技術なども、日本企業の中国への製造設備移転や途上国支援の技術協力といった形で中国に渡ったもの。粗暴な相手に頼まれて刀を貸し、気づいたら斬られていたような話である
▼磁石の件は米国が強める対中国半導体輸出規制への報復と、脱炭素分野での覇権狙いとされるが、日本の短視眼的なもうけ主義や善意が逆手に取られた感は否めない。中国は全幅の信頼を置いてオールをまかせられる国ではないのだ。