東洋大学の前身「哲学館」を創立した井上円了は、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」の心理を針小棒大のキーワードで解説していた
▼1904年に発表した『迷信解』にこう記している。「諸方に天狗談が伝わるときは、物ずきな人ありてこれにいろいろのおまけを付け、針小棒大にいいふらし、また小説家や画工はこれを材料として一層人の注意を引く」。かくして話だけがどんどん大きくなっていくというのである。「天狗」とは妖怪や化け物、幽霊の総称。人々の中に怖がる心があるため、それを刺激されると枯れ尾花が「実に不可思議な大妖怪」になるそうだ。昔は迷信深かったからと笑ってもいられない。小さな気がかりを針小棒大に言いふらし、大騒ぎする人は今も変わらずいる
▼東京電力福島第1原子力発電所の処理水海洋放出についてもそうだ。IAEA(国際原子力機関)はじめ世界の権威ある学術機関、研究者から安全の裏付けを得ているのに、いまだ災厄をもたらす蛮行と喧伝する動きがある。もちろん国内にもあったが、これまで最も激しく海洋放出を非難してきたのはお隣の韓国だった。その専門家らで構成する視察団が23、24の両日、訪日して第1原発を実地で確認したそうだ。岸田首相と尹錫悦大統領が先に合意した、関係改善に向けた一環である
▼屋上屋を重ねる検証で、これ自体にそれほどの科学的な意味はない。政治的な話である。ただ、現地を見た以上、評価結果は世界中の科学者の注目するところとなろう。さて、視察団は心に巣くう大妖怪を退治することができたのか。