明治維新後の日本で急激に増すエネルギー需要を賄うのに、中心的役割を果たしたのが石炭だった。用途は船舶や鉄道といった輸送用の動力から、製鉄に必要な熱源まで多岐にわたる
▼炭鉱経営自体は財閥や大手の企業が手掛けたが、政府も国策として開発を推し進め、資金をつぎ込んだ。まず九州の高島(長崎)や筑豊(福岡)で産業の近代化と集積を図り、次いで北海道の幌内や夕張に手を広げていったのである。富国強兵のためにはエネルギーがいくらあっても足りない。しかも他国に頼れない時代だ。自国で調達するしかなかった。そこで必要な全量のほとんどを供給していたのが、日本の北と南に位置する北海道と九州だったのである
▼デジタル化の進展で「産業のコメ」とも呼ばれる半導体の一大生産拠点が、やはり北海道の千歳市と九州の熊本県菊陽町にできるという。北と南に位置する両地域が時代を超え、再び産業や暮らしに欠かせない製品を生み出す主要な役割を担うことになるとは感慨深い。先行したのは熊本で、台湾の世界的な半導体メーカー「TSMC」が進出。来年12月の操業開始を目指し工場建設が進む。次いでことし決まったのがRapidus(東京)の千歳での新工場建設である
▼経済産業省は5月30日、「半導体・デジタル産業戦略」で北海道と九州を新たな中核拠点とし、費用の半分を補助する方針を打ち出した。高性能な半導体の自国生産が今後の国の盛衰を左右するだけに、政府も必死なのだろう。北海道と九州が日本の産業の新たな活力になる。そんな日も近い。