国家プロジェクトとして政府が推進する道内空港民営化に向けた本格的な取り組みが21日、始まった。高橋はるみ知事は、空港が立地する16市町の首長らと道庁で意見交換し、2020年をめどに新千歳を核とした複数空港の一括民営化に取り組むことで了承を得た。格安航空会社(LCC)の就航促進などによるインバウンド(訪日外国人観光客)のさらなる増加に向け、経済界の後押しも受けて道は、国に対する提案の具体的な検討などに入る。年内にも提案を取りまとめる考えだ。
政府は、20年に2000万人としていたインバウンドの目標数を倍の4000万人に引き上げた。実現に向けた施策として、東京五輪・パラリンピックが開かれる20年までに国管理4空港(新千歳、函館、釧路、稚内)を一括して民営化する方針。14日の産業競争力会議実行実現点検会合では、道内空港の民営化を国家プロジェクトと位置付けた。
3月に会談した菅義偉官房長官と高橋はるみ知事は、市が管理する帯広、旭川両空港を加えた6空港の民営化に取り組む方向で一致。ただ、広大な本道は13の空港を抱えていることから、高橋知事は①広域観光の振興などを支える道内の航空ネットワーク充実強化②ネットワークの中核となる新千歳空港の国際拠点空港としての機能強化―の2点を前提とした。
こうした状況を説明したこの日の意見交換会では、高橋知事が「強い追い風が吹くこの機会を好機と捉え、外国人観光客を地域にバランスよく誘客することで、全道にその効果を波及させるような民営化に取り組んでいきたい」とあいさつした。
その後の意見交換は非公開。「道の提案は地域が抱える課題に十分配慮してほしい」「民営化に参加しない空港を含め、道内空港をしっかり守ってほしい」などの意見が挙がったという。
終了後、記者団の取材に高橋知事は「総じて言えば、おおむね理解してもらった。国は20年を念頭に置くと強く言っている。それを前提とした場合は逆算すると、道の提案は年度内、理想的には年内に取りまとめる必要がある」と見通した。
空港立地地域の了承を取り付けたことで、今後は5月に初会合を開く国と地方の協議の場で、バンドリングの課題、民営化の要望事項と道の提案への反映検討、バンドリング対象空港の選定、民間委託形態の検討などを進める。
民営化に先立って政府は、新千歳空港の機能強化の一環として、発着枠拡大と一部外国航空会社の乗り入れ制限緩和を決めた。発着枠は17年3月から10枠増の42枠になり、旧共産圏(中国、ロシア)の航空会社はことし10月からこれまで以上に乗り入れることが可能になる。〝爆買い〟が注目された中国などからのインバウンド増加が期待される。
経済界も空港民営化を後押しする。北海道経済連合会は国管理4空港と市管理2空港に加え、道管理の女満別空港も指定管理制度による特別目的会社(SPC)の一体運営をした後、経営統合を段階的に進めるなどの提言を3月にまとめた。
道内企業が主要な役割を果たす必要があるとの考えから、研究会の設置も検討。北海道商工会議所連合会や北海道経済同友会、北海道観光振興機構に参加を促し、先行事例からSPCの資金調達法や、民間運営の課題などを調査するとみられる。
道内空港の民営化については「枠組みの議論が先行している」との声も聞かれる。経済団体のある関係者は「最初からいくつの空港を民営化するかではなく、まず北海道として人流、物流の機能分担の中でどうあるべきなのかを議論することが先なのでは」と指摘。観光をはじめとする本道産業全体を巻き込んだ戦略的な空港運営の在り方が求められている。