深刻化する人手不足ー高齢者活用の一方で世代間バランスにも苦慮

2016年09月16日 19時20分

 技術者の人手不足が深刻化する中、あの手この手で課題に対応する企業の動きが見られる。その一つが高齢者の活用だ。65歳までの雇用確保が義務化され、多くの建設業者は60歳の定年後に再雇用という形を取るが、電気工事業の拓北電業(本社・札幌)は65歳までの定年延長に踏み切り、人材の確保や技術伝承につなげている。道内の電気工事業界に高齢者雇用に対する方向性を取材した。

 拓北電業はこれまで、60歳を定年とし希望者を1年ごとに再雇用する仕組みを取ってきた。しかし契約や給与の見直しなど手間も多いため、「一気に5年としたかった。何より人手不足や技術者が育たないといった問題に対応するため踏み切った」と鈴木暁彦社長は話す。2017年4月から適用を始める。

 制度を運用するに当たり、60歳までは給与カットはせず、61歳以降もほぼ同じ水準で給与を支払うことにしている。既に60歳を迎え退職金を支払った社員には、そこから働いた差額分を65歳の退職時に支払うことにしている。

 電気工事業は高所作業が多いことから、高齢の技術者は高所作業車以外の作業を控えたり、残業を減らすといった配慮を講じる方針だ。

 同社は主に工業高や専門学校卒の採用を進めており、ここ数年で社員の平均年齢は以前の40代から30代に下がった。

 鈴木社長は「65歳まで働けると知れば、生活設計を組み立てる上で安心感につながると思い、早めに対応した。この取り組みが、ゆくゆく業績アップにつながると考えている」と話している。

 末広屋電機(本社・札幌)は9年前、他社に先駆け60歳定年の再雇用と選択式で65歳定年制度を導入したが、選択する社員が少なく3年前に廃止した。

 同社は賃金ピークを55歳に設定し緩やかに減少する方式を用いた。水準維持は人件費総枠が上昇することに加え、年金支給とのバランスから必ずしも社員のメリットになると限らないためだ。

 賃金割合が高齢者に偏れば、若手のモチベーション低下や技術者流出を招きかねない恐れもあり、現在は60歳定年後に65歳までの再雇用に戻している。

 「健康な高齢者の活用は図られるべきだが、若手を確保できなければ、人材不足への対応は本末転倒となる」―。道内電気工事会社の労務担当者からは、こうした声が聞かれる。

 企業にとってベテランが持つ豊富な経験や知識は得がたいものだが、優遇が過ぎれば世代間で不公平感を生む可能性があり悩みどころだ。

 定年延長は一つの形であり、厚生労働省は、定年を65歳以上へと引き上げる企業に対する支援拡充を進めている。だが、次世代を担う若手確保とのバランスを慎重に考える必要があると感じる企業も多く、より良い方策の模索は続いている。


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