「いのちをつなぐチャリティマルシェ」は、道内の生産者が東日本大震災復興への思いを込めて無償で提供する農産物などを販売し、その収益を支援に充てるチャリティイベントです。実行委員会メンバーをはじめ、運営スタッフは皆ボランティア。活動資金もなくスポンサーも付けない草の根の取り組みは、札幌で春と秋に定期的に行われ、毎回多くの人でにぎわっています。被災地に心を寄せる人たちと思いを重ね続けることが、未来を創る力になればという今野さんにお話を伺いました。
★チャリティマルシェの初日は、2011年3月22日でした。復興支援イベントにいち早く取り組み、全国から注目されましたね。
☆今野 私は、昨年まで北海道庁の農政部にいました(現在は農林水産省に勤務)。多くの尊い命が失われ、豊かな農村・漁村地域が壊滅していく震災報道を見聞きする中で、やりきれない気持ちを仲良くしている道内の生産者たちとツイッターで共有していたんです。
彼らと思いの丈や心から溢れ出てくる言葉を交わし合ううちに、何か自分たちができることはないかと、熱い議論になりました。生産者は思いを込めて生産した農産物やチーズを提供し、生活者はその思いを理解して買い物をする。チャリティマルシェという多くの人が気軽に無理なく支援に参加できる仕組みで、生産者と生活者の「思い」が重なり集まった「志金」を被災地に送ろうと考えました。
早速、会場探しに奔走。開通したばかりの地下歩行空間で開催予定だった産直イベントの主催者に趣旨を伝え、急きょキャンセルが出たブースを無償でお借りすることができました。開催まで短期間の呼び掛けだったにもかかわらず、30人もの生産者有志が賛同の名乗りを上げてくれ、農産物も想像以上に提供してもらえました。
チャリティマルシェに共感してくださった多くの皆さんのおかげで、1回目から50万円以上の売り上げを被災地に募金できたんです。回を追うごとに内容も充実。名シェフの一品や地酒なども味わえる飲食スペースや、道内外のミュージシャンによるチャリティライブも定着しています。惜しみなく協力をしてくださる皆さんの心意気に支えられ、本当にありがたく思っています。
★マルシェでは、海産加工品など被災地の名産品や、企業の商品物販も好評です。被災者ご自身の実感を語り伝えるトークライブに聴き入るお客さまも多く、会場を包むチャリティマルシェならではの一体感を感じました。
☆今野 被災地の企業に協力を請い、2回目から東北の物販も始めました。トークライブは、被災された当事者の言葉を直接聴ける貴重な場として、多くの人が耳を傾けてくれています。
東北の食の魅力は、北海道に負けず劣らず多彩です。物販で扱う商品は、実行委員が被災地に足を運び、そこに根付く食文化に触れ、ものづくりの知恵や意気を感じ、ほれ込んだおいしい商品を取り寄せているんです。それほどのものですから、お客さまにおすすめする時にも自然と熱がこもってしまいますね。
先日のトークライブでは、震災の記憶が風化し、復興の途上にいる自分たちが日本の中で取り残されていくかのような不安を抱くという被災者の言葉に心打たれました。チャリティマルシェが目指しているのは、売り上げを伸ばしたりイベント規模を拡大することではありません。一人でも多くの人と被災地の〝今〟に心を留める機会や時間を共有し、支援の輪を広げていくこと。そこはぶれず、丁寧に回を重ねていきたいです。
★先月、7回目のチャリティマルシェが行われました。テーマは「根っこ」。息の長い支援活動を志向する力強さが伝わってくるテーマだと思いました。
☆今野 チャリティマルシェに参加してくれたミュージシャン同士が、チャリティマルシェのために書き下ろした歌に、〈その苦しみも悲しみも優しさも。全てが未来を生きていくための、根っこになりますように。〉というフレーズがありました。
広く深く太く根を張る大木がどんな風雨にさらされても決して倒れないように、私たちの一人一人の中にも、被災地に寄り添い、未来を創造する広く深く太い根を張った揺るぎない気持ちを持ち続けたい。これが、テーマ「根っこ」に込めた思いです。
復興までにはまだまだ時間がかかります。いのちをつなぐチャリティマルシェは、次の世代につなげる希望の種まきのような活動かもしれませんね。これからも多くの人を巻き込み、多くの人と今と未来を語り合いながら、私たちの未来を考え、創造できる場として、ゆるやかにじっくり取り組んでいきたいと思っています。
取材を終えて
〝食〟通じ人を結ぶ架橋
帯広畜産大大学院を修了している今野さん。学生時代から生産現場にも足繁く通い、生産者の配慮や技術で生まれる「食」の背景の奥深さを実感。今も現場主義は変わらず、人と人、場のつなぎ役にこだわり、「農」や「食」の価値を一人でも多くの人と共有したい、と話します。未来を見据え、行動し続ける今野さんのバイタリティと信念に触れるインタビューでした。