真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第59回 NPO法人札幌ビズカフェ代表理事 ニーズ株式会社代表取締役 石井 宏和(いしい ひろかず)さん

2015年03月20日 15時53分

 札幌ビズカフェ(以下、ビズカフェ)は、札幌のベンチャー経営者をはじめ有志の発起により、2000年に始動しました。ベンチャーのメッカ・シリコンバレー(米国)の「ビジネスカフェ」に倣い、コミュニティカフェを拠点に、起業家や起業家精神に富む人たちの交流、情報の集積、ネットワークの構築などを志向。地域経済や新産業の振興を試みる先駆的取り組みで、01年には経済産業大臣賞を受賞しています。03年にNPO法人化し再始動。現在会員数は、個人、法人を合わせおよそ500人に上り、「New Business From New Style」を掲げた〝ベンチャービジネスのエンジン〟として、貢献し続けています。昨年、代表理事に就任した石井さん。ビズカフェは未来を創造する原動力でありたいと話します。

★石井さんは、学生時代にビズカフェと出会ったそうですね。

石井 宏和さん

☆石井 創設時、私は北大の学生でした。高校は広島県の男子校。当時は敷かれたレールに特段疑問も抱かず、成績に見合う大学に進学。入学してからは、サークル活動に励むわけでもなく、友人と遊んでいても心から楽しいとも思えず、自分を持て余しながら大学生活を送っていました。

 そんな時、友人の勧めでビズカフェが主催する勉強会に参加したんです。そこで、北海道から世の中を変えようという気概に満ちた大人たちの姿に触れ、こんな生き方があったのかと、目からうろこ。大学が肌に合わない、友人といても面白くないなどと、置かれた環境にただ不平不満を言っているだけの格好悪い自分を省み、価値観がガラリと変わりました。

 自ら切り開く意欲に駆られ、大学卒業後は企業の内定を辞し、1年間、的屋稼業で各地を転々としたんです。屋台の売り上げは、お客さんとの会話や商品の陳列など工夫次第で変わり、ユーザー目線を大切にしたビジネスの原点を垣間見る経験でした。

 その後いったん、広島の企業に勤務。間もなく、札幌でインターンシップ事業を立ち上げたいという友人に賛同し、北海道に戻る決意をしました。07年に合資会社Neeth(ニーズ)を創業(12年に株式会社化)。08年からはビズカフェの理事も務めています。

 社業やビズカフェを通し、実践型のインターンシップ事業等で北海道の人材育成の土壌強化に努めるとともに、新規事業の立ち上げや、地場企業、行政、大学などとの連携で、北海道の潜在力を最大限に発揮できるような地域活性プロジェクトも積極的に仕掛けてきました。社名は「North Needs With」から成る造語。北海道にとって必要な存在でありたい、地域の課題を地域の人たちと手を携えて一緒に解決していきたいという思いを込めています。

★ビズカフェで石井さんの起業家精神が開花したのですね。

石井 宏和さん

☆石井 北海道の「人」は財産です。真面目に努力する人も多く、そもそもビズカフェ設立も、「サッポロバレー」と呼ばれるIT産業の集積で育まれた技術力とマンパワーに起因しています。しかしそのような〝人財〟が活躍できる場が北海道には少なく、多くの優秀な人たちが首都圏に流出してしまうんですよね。その口惜しさも起業家精神に火を付けました。

 インターンシップの学生やプロジェクトを共にした若者たちの成長は、この仕事の喜びです。網走市では、少子高齢化や町の空洞化を見据え、ある学生起業家を支援。今や彼は、コミュニティカフェの運営に加え、商店街の空きビルを購入して飲食店を3、4店舗も経営し、知恵と行動力で地域経済の一翼を担う頼もしい起業家になりました。

 岩見沢市の商店街活性化プロジェクトに加わったインターン生は、そこで起業し、自ら立ち上げた新たな地域活性プロジェクトにまい進しています。かつて私は、ビズカフェの諸先輩が本気でプロジェクトに当たる様を目の当たりにし、その背中から大いに学びました。今度は私たちの世代が、後進に生き方の軸を見せていく番。立ち位置を真摯(しんし)に受け止めています。

★創立から15年。起業家精神の底上げを意図したビズカフェの種まきが、確実に芽を出しているのだと感じます。

石井 宏和さん

☆石井 起業の苗床を育てたB1期(創立―)、その苗床を道内各地に根付かせ、地域のコワーキングカフェ設立やリーダー育成に注力したB2期(03年―)を経て、B3期は、私が代表理事となり理事も40代以下に若返りました。

 B3期のテーマは、あらためてビズカフェの精神「New Business From New Style」に立ち返り、「世界のHOKKAIDO」を標榜(ひょうぼう)するプロジェクトや起業を創出することです。ASEANへ事業を拡大する会員企業も増加傾向です。ビズカフェでもIT企業のベトナム進出を支援し、一昨年、昨年と、現地法人を設立。着実に成果を重ねています。

 一昨年には札幌で、ビズカフェと米国大使館の共催によるビジネスイベントを開催。海外からの投資を促すことも、北海道の可能性を世界に誇示する一つの手段であると捉えています。

 思い描くのは、グローバルベンチャーの本社機能が集中するHOKKAIDOに世界各地からビジネスマンが訪れるという未来図です。究極の自己責任と自己決定が起業の醍醐味(だいごみ)。今後も強い思いと行動力を備えたリーダー輩出に力を注ぎ、自らをも鼓舞しながら、同志である起業家、あるいは起業家精神を持つ人たちと切磋琢磨(せっさたくま)し、未来をつくっていきたいと思います。

取材を終えて

受け継がれていく精神

 取材時、石井さんは米国務省の招待視察から帰国したばかり。海外から北海道や日本を眺め、国際競争のただ中にいることをあらためて自覚し、起業家として、思いを新たにしたそうです。導いてくれた方々のご恩に報い、次世代への「恩送り」をしていきたいという石井さん。継がれる起業家精神の志を知るインタビューでした。


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