模型を作って、解体してからまた同じものを作る
訓練は午前9時に始まり、午後3時50分に終わる。
1時限当たり50分のカリキュラムには型枠模型作製や工具器具使用法、測量実習、墨出し実習などが並ぶ。
座学は退屈なのか、居眠りをする者もいた。帯広地方高等職業訓練校の星哲博校長は「座学の時間をもう少し減らせばよかった」と苦笑いする。
それでも半月もたてば、工具の扱いに慣れ、段取りが少しずつ飲み込めてきた。訓練生同士打ち解け、雰囲気がよくなった。3月3日、市内の現場に初めて見学に行ったとき、ある訓練生は「模型を作って分からなかったことが、現場に来て、なるほどそうかと思った」と実感した。
4月22日。帯広職業能力開発センターの実習室で訓練生たちは、手慣れた様子で柱部分の型枠を建て込んでいた。2人一組で、1人が柱のせき板を押さえ、もう1人がセパレーターを取り付ける。協力しながら、真剣なまなざしで作業を進めていた。
1カ月ほど前の3月中旬に、高さ2・5m、幅9m、奥行き5mのラーメン構造の型枠作成実習に取り組んだ。組み立てから解体まで一連の作業で、この日は2回目の組み立てに挑んだ。
北海道型枠工事業協同組合十勝支部の国枝恭二支部長は「模型を作って、解体してからまた同じものを作るのがポイント」「1回作って形が頭に入るため、2回目は早いし精度も上がる」と話す。
どんどんできてくるのが分かるから面白い
初回の作成実習は精度もスピードもひどかったという。
しかし、手順を把握したからか、2回目はてきぱきと進め、何をしたらいいのかと立ち尽くす者はいない。訓練生の一人は「1回作ったプラモデルをもう1回組み立てるようなもの」と笑うが、1回目で2日かかった柱の建て込みは、2時間程度で終わる勢いだった。
休憩時間は喫煙スペースで横になるなど普通の若者に戻る。昼休みはオンラインゲームに興じ、気さくに談笑していた。作業を再開すると、再び真剣な表情に変わった。1回目の反省を口にし、作業の流れを講師に確認する生徒もいた。
訓練生の春木佑充さんは「この仕事に就くかどうかはまだ分からない。建て込みは、どんどんできてくるのが分かるから面白い」と感想を口にする。最年少の落合拓海さんは「やりがいのある仕事だと感じ始めた」と手応えをつかんでいた。
講師を務めた五十嵐建設の五十嵐勉社長は「1回目は分からない中でやっていたが、そのときに出来が悪かったところを把握し、気を付けるポイントを抑えた」と、目を見張る。訓練生が協力し合う姿にも「実習は共同作業が多いが、段取りや役割分担ができている。現場でも他工種との協調が必要となる」と、まじめな取り組みに感心していた。
「訓練生6人に先生1人は厳しい」
今回はキーマンとなる訓練生がいた。渡辺任世さん。型枠大工の経験者だ。
以前務めていた職場は通期雇用の制度もあったが、若者がいなく、資格を取る暇がないほど忙しかったという。今回の講座には玉掛け技能講習とアーク溶接特別講習があり、一から技能の基本を身に付けたいという気持ちもあって参加した。
他の訓練生は「渡辺さんがいて本当に助かった」と口をそろえる。「経験者なので、聞けば嫌な顔をせずになんでも教えてくれる」(春木佑充さん)。講師の助手のような立場で講座を支えた。
磴結貴さんは「訓練生6人に先生1人は厳しい」と話す。「工事実習で3人と3人に別れて片方に先生が付くと、もう片方は何をしていいのか分からなくなる。こうした講座では先生を増やした方がいい」と指摘する。
星校長は2014年度の訓練に参加し、修了後に就職した生徒3人が今も一生懸命に働き、周りの評判がいいことを喜んでいる。3人を送り出した実績ができたことで、ハローワークでも紹介しやすくなったという。その上で「この取り組みが全道に波及するよう進めなければ」と意気込む。
座学や実習で身に付けた技術を生かすため、5月中旬からインターンシップに入った。業界の期待の表れか8社からの受け入れ希望があったが、派遣先に1人では不安だろうと判断し、市内の五十嵐建設、倉金技建、大栄建設の3社に2人ずつ派遣することにした。