風邪薬や胃薬、頭痛薬など市販の薬には必ず「使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って正しくお使いください」と記された紙片が添えられている。まあ隅から隅までじっくり読む人は少なかろう
▼それでも自分がいつ何錠飲めばいいかだけはきちんと確認しているに違いない。15歳以上は1日3回食後に各2錠といった決まりのことだ。足りなければ効果が見込めないし、多過ぎては体に毒だと思うからである。ところが、これが百薬の長とも称される酒となると、途端に用法・用量に無頓着な人が増えるのはどうしたことか。ラベルに年齢制限や妊産婦への注意はあるが、用量については「適量を」程度のことしか書かれていないからかもしれぬ
▼アルコールの副作用で身を滅ぼす人が一向に後を絶たない。今月も札幌で酒に酔ったタクシー客が暴れて料金を踏み倒し、書類送検される事件があったばかり。同じ札幌だが酒気帯びで車を運転した末に事故を起こし、1歳の長男を死なせた悲しい例もあった。萩原朔太郎が警句集『新しき欲情』で、飲酒についてこう述べていたのを思い出す。「酒を飲む目的は、心地のよい酩酊に入つて忘我の恍惚を楽しむにある。ところがある種の酒飲みは、飲酒によって全く反対になる」
▼どうなるのか。「やきつくやうになり、いらいらして、無鉄砲に意志を押し通そうとする」。皆さんの身近にも一人や二人いるのでないか。そんな人に限って酒に強いと勘違いしているから困る。ラベルには書かれていないが自分の用法・用量くらいは把握しておいた方がいい。