福岡市のJR博多駅前で8日発生した大規模道路陥没事故のニュース映像には驚かされた。整然とした街に突如出現した奈落である
▼幅と長さが各約30m、深さが最大で15mというから、5階、延べ4500m²程度のビルがすっぽり入ってしまう見当だ。崩落時の動画を見ると、瞬く間に道路が地下に飲み込まれていく。ガスと下水の臭いも立ち込めたらしい。隣接したビルにいた人は生きた心地もなかったろう。その恐ろしい光景を目にして、芥川龍之介の短編「老いたる素戔嗚尊」(1920年)のこんな一節を思い出した。「どうしたはずみか、急に足もとの土が崩れると、大きな穴の中へ落ち込んだのです」
▼老いたスサノオが、娘の須世理姫と恋に落ちた若者を荒野に誘い出し焼き殺してしまおうとする場面。火に囲まれ逃げ場を失った若者は足元の地面が突然崩れたため無事助かったのだったが、今回の事故では工事関係者らの機転や市の適切な対応で、一人も穴に落ちることなく助かったらしい。現場では地下鉄七隈線の延伸工事をしていたそうだ。市はこれが影響したと認め、原因の解明に努めるという。ことしは熊本地震もあった。福岡市も震度5を記録したと聞く。液状化や岩盤の裂け、老朽インフラの破損はなかったのだろうか。それが気になるのは全国どこでも同じことが起こり得るからである。傷ができれば何かの弾みで必ず広がり事故を招く
▼とはいえ隣接したビルは揺るぎなく立ち続け、14日までには現場の仮復旧も終えるという。その建設技術の高さにも驚かされる。