江戸期以前のこと、城中や寺社境内には馬が入れなかったという。訪れた一行は門前で馬を下り、主人と側近だけが登城、参拝。供の者はその場で待たされた
▼さてこうなると用を足している主人らはいいが待たされている方は暇である。いきおいうわさ話に花を咲かせることになったらしい。主人の出世予想や関係者の裏話、お家の将来評価など、当事者でない気楽さで言いたい放題。これつまり「下馬評」である。そんなファンや解説者、マスコミの下馬評を鮮やかに覆したのがサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会初戦での日本だった。19日、FIFAランク16位の強豪コロンビアを61位の日本が2対1で破ったのである。テレビの前で喜びを爆発させた人も多かろう
▼実力差、直前の監督交代、短期間での戦術見直しと悪い材料がこれだけそろえば大方の下馬評が日本の負けに傾くのも無理はない。ただ所詮は当事者でない者の見方。試合を見ると選手たちは一瞬も勝ちを疑っていない様子だった。事実、前半開始早々、MF香川真司が果敢に攻めて相手の反則を誘いペナルティーキックで先制。前半終盤に1点返されたものの、日本にありがちな集中力の切れと諦めは見られなかった
▼勢いは止まらず、後半途中出場したMF本田圭佑のコーナーキックをFW大迫勇也が頭で押し込み勝ち越し。そのままホイッスルを聞いた。W杯初戦で勝ち点を得ると1次リーグ突破は確実との話もあるが、データの少なさからすると下馬評に近いだろう。とはいえ、この話に限っては覆らないよう願いたい。