詩人の丸山薫に今時季の情景を描いた一編「北の春」がある。作品の中にこんな一節があった。「緩みかけた雪の下から 一つ一つ木の枝がはね起きる それらは固い芽の珠をつけ 不敵な鞭のように 人の額を打つ」
▼当方も先週土曜、札幌近郊の空沼岳に登り幾度か木の枝に額をむち打たれたため、この詩を思い出した次第。頂上付近にはまだ冬の趣がそのまま残っていたが、麓の方では春が顔をのぞかせていた。春分の日も過ぎ、いよいよ本道にも本格的な春がやってきそうだ。真冬日もめっきり減った。「女子寮のピンポンの音春めけり」谷内瑞江。長く寒い冬が終わり、心が浮き立ってくるからだろうか、何を見ても聞いてもそこに春を感じてしまう。不思議なものである
▼本道ではまだ1カ月ほど先のことになりそうだが、東京では早くもきのう、桜が開花したとのこと。「一からの出直しとなる桜かな」磯野充伯。毎年、桜前線の話題が出ると、自然と気持ちが新たになるのも日本人ならではだろう。春はまた、異動だ何だと身辺が騒がしく、心が不安定になる季節でもある。事実、自殺者が一年で最も多いのもこの3月だという。厚労省がきのう発表した2016年度「自殺対策に関する意識調査」によると、成人の4人に1人が自殺を考えたことがあるそうだ
▼まあ慌てることはない。つらいことは頭を低くしてやり過ごそう。「時ものを解決するや春を待つ」高浜虚子。あれだけ悩まされた雪も春には解ける。心に積もったものが消えれば、元気な自分も木の枝のように跳ね起きよう。