釧路湿原と知床結ぶ「観光鉄道」
JR北海道が「単独では存続困難」と位置付けた釧網本線。沿線自治体は、都市間長距離バスや京都丹後鉄道の運行などを手掛ける交通事業者のWILLER(本社・大阪)に、利活用の可能性を探る調査業務を依頼した。これまで顧客の潜在的なニーズをくみ上げて事業を拡大してきた村瀬茂高社長は、釧路湿原と知床世界自然遺産を結ぶ「観光鉄道」としてのポテンシャルに注目している。同社の取り組み事例を通じて、地域の交通体系を考える。
■地域の信頼獲得
旅行代理店を経て、10年で全国各地の都市を結ぶ高速バス会社の最大手となった同社。年間約300万人が利用する。乗客ニーズを小まめにリサーチし、新たなサービスを次々と提供している。
寝顔が隠せるフード付きシートや足を伸ばせるフラットシートを車内に配置するなど、夜間バスを敬遠しがちな女性に配慮した取り組みで、潜在する顧客層を掘り起こした。
「若い女性は高速バスをこういう理由で嫌がるとか、一つ一つ乗らない理由を消していった」と話す村瀬社長。移動に価値を見いだし、見えない需要を喚起する。「事業者がここに来てくださいと施設を造り、呼び込む時代ではない。旅行者のニーズが優先されるべきだ」と主張する。
■乗客ニーズ優先
同社が運行を担っている京都丹後鉄道は、京都府北部と兵庫県北東部を結ぶ。貸し切りやレストラン列車など、イベント企画を組み合わせた特別車両を考案し、乗客を引き寄せている。
以前は北近畿タンゴ鉄道として、京都府などが出資する第三セクターが運行していたが、少子高齢化や生活環境の変化などにより収入が減少。沿線自治体は事業再構築を図るため、インフラ保有者と運行事業者を分ける上下分離方式を取り入れることにした。公募の結果、2015年に同社が運営権を得た。
「高速バスは都市間しか結べない。今度は、一つの地域の中でのミニマムなネットワークをどうするかという課題に向き合う必要があった」と、鉄道事業に参入した経緯を明かす。丹鉄沿線には、日本三景の天橋立をはじめとする観光地があり、京都はインバウンド観光客であふれていて、戦略を立てやすかったことも理由に挙げる。
自治体をまたぐ鉄道を基軸とし、2次交通に移行する仕組みをつくることが会社の成長に必要だと感じていた。
運行開始から3年は利用者を優先にダイヤを組み立て、沿線地域の信頼を得ることに注力。地域住民を巻き込んだ観光コンテンツの企画などで、利用率を伸ばした。
■新たな「価値」へ
駅に超小型モビリティ(1―2人乗りの車両)を導入するサービスを19年から提供し、2次交通につなげる。「鉄道の最大のライバルはマイカー。車を持たなくていいような仕組みをつくる」。駅に降りて3マイル圏内の移動手段として、地域住民や観光客に安価で提供する。
丹鉄は地域住民の生活の足を守りながら、観光を引っ張る運営手法を取り入れる。鉄道路線だけでなく地域の魅力づくりと一体化した商品開発により、これまでなかった観光鉄道という新たな価値を生み出している。