言われてみれば確かによく聞く言葉である。日本語学者森田良行氏が著書『日本語をみがく小辞典』(角川ソフィア文庫)に、「戦後『闇』ということばくらいよく使われた語はない」と記していた
▼「闇市、闇屋、闇値、闇取引」など枚挙にいとまがない。もともとは月や星のない真っ暗な夜を指す言葉だが、転じて明るい所ではできない行為や正規の手続きを踏まない取引の意味でも使われるようになったらしい。森田氏はさらに闇には巨大な力が感じられるとして、その特徴をこう表現していた。「闇は人に物を見えなくさせる。物の道理もわからぬほど思慮・分別を失わせる」。その伝でいくと今のわが国は、新型コロナウイルスの闇の中にあるといえるのでないか
▼東京株式市場の日経平均株価が休日明けのきのう、開始間もなく1000円以上値を下げた。24日のニューヨーク株式市場でダウ平均が急落して引けた影響とはいえ、健康のみならず経済にも不安と恐怖が広がっている現実を示していよう。騒動は終息する気配を見せず、「燎原の火」のごとく火勢は強まる一方だ。政府や各党政治家をはじめ識者やマスコミ、一般の人々も寄れば触ればコロナの話題。ところが主張は皆ばらばらでどれを信じていいのか分からない
▼大小問わず行事や外出を自粛する動きも目立ち、これではコロナより景気の悪化で倒れる人が続出しそうな気配である。感染のピ
ークを抑えるのに今が肝心なのはもちろんだが、闇におびえるあまり思慮分別を失うのは考えものだ。闇の中で突っ走れば思わぬけがをする。