信用第一とはありきたりな言葉のようで実は人間関係の根幹を成す理念だろう。『論語』の子張第十九にもこんな一文がある。「子夏が曰わく、君子、信ぜられて而して後に其の民を労す。未だ信ぜられざれば即ち以て己れをやましむと為す」
▼君子は信用されてはじめて人民を使う。まだ信用されてもいないのに使おうとすれば、人民は君子が自分たちを苦しめようとしているのだと考えるものだ、というのである。根拠のない批判も多いが、この件に関しては安倍首相も自らの信用について真剣に考えた方がいいのでないか。黒川弘務東京高等検察庁検事長の定年延長問題である。黒川氏を次期検事総長に据えたいがために、異例ともいえる法解釈変更までして延長実現に動いているように見えて仕方がない
▼検事総長任期は2年が慣例のため、稲田伸夫現総長は今夏で退任する。ところが次期有力候補黒川氏の定年は今月。これに困った政府が窮余の策として国会公務員法の特例延長制度を持ち出したわけだ。内閣に任命権があるとはいえ、検察トップの検事総長は独立性と不偏不党が命。これまでも人事に当たっては属人的になることを避け、制度に則り順当に席を埋めてきた。誰がなろうと法の執行に違いはないとの理念からだ
▼ただ、今回のように政府が定年延長を画策までして黒川氏を推すとなると話は怪しくなる。こうした三権分立に直接手を出すことは「モリカケ」や「桜を見る会」とは次元が違う。首相に思惑などなくとも疑いを持たれるだけで信用に傷がつく。ごり押しは控えた方がいい。