中国人観光客の姿が日本の街角から消えてしばらくたつ。新型コロナウイルスのパンデミックで渡航制限がかかったためである。爆買いが話題になっていたのがもうずいぶん昔のことのようだ
▼思えば平和的な光景だった。楽しむためにわざわざ海を越えてやって来るのだから当然だが、笑顔の人が多い。観光地はにぎわい、土産物屋は繁盛、ホテルや交通機関も満員御礼である。日本にとっては大のお得意様だった。その観光客と中国共産党が頭の中でうまく結びつかない人は多いのでないか。観光客の笑顔とは裏腹に、中国は尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返し、南シナ海では勝手に領有権を設定。チベットや新疆ウイグル自治区では圧政を敷いている
▼豪作家クライブ・ハミルトンが著書『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』(飛鳥新社)にこう記していた。「北京は、増加する中国人観光客や海外の大学に留学している中国人学生たちを通じた人的な交流さえも『武器』として使って」いる。武力が使えないときは観光や貿易という名のチャイナマネーに物を言わすわけだ。笑顔で抱き込めなければ牙をむく。「中華民族の偉大なる復興」(習近平国家主席)を狙う中国のいつもの手である
▼おととい、中国は香港の反体制活動を封殺する国家安全維持法を成立させた。今回も「一国二制度」大いに結構と笑顔を見せながら、民主化の声が高まるとちゅうちょなく牙で押さえ込んだのだ。50年間制度を維持するとした国際公約も踏みつけである。日本も笑顔に気を許しているとどうなるか。