俳人金子兜太に一句がある。「おびただしい蝗の羽だ寿(ことほぐ)よ」。ものすごい数のイナゴが一斉に飛んで行ったのだろう。壮観だったのでないか。実際に見た経験はなくとも、「おびただしい」の言葉で光景がありありと目に浮かぶ
▼これに限らず日本語には数量の多いことを表す言葉がたくさんある。大勢、いっぱい、あまた、どっさり、しこたま―。全て挙げるとそれだけで当欄が埋まってしまうほどだ。豊穣を願う稲穂の国だからか、日本人は太古の昔から「多い」ことに特別な価値を見いだしていた。言葉の種類の豊富さはその現れ。お酒がなみなみとつがれるのを喜び、ご飯はたらふく食べられるのを良しとするのである。そんな日本で続くこの事態だ。国民の不安は増すばかりに違いない
▼総務省が5日、ことし1月1日現在の住民基本台帳に基づく人口動態調査結果を発表した。日本人住民の人口は昨年より50万5046人減り、1億2427万人になったそうだ。11年連続の減少だという。たわわに実っていた果実が徐々にしぼんでいくようで寂しい。本道は一層その傾向が強く、昨年比4万2286人減の522万6066人。22年連続の減少である。減少数も2位の兵庫(2万6937人減)を大きく引き離しての1位だ
▼少子高齢化が原因と分かっていても、政府の少子化対策はなかなか現実に追い付かない。この上は移民に頼るしかないとの意見もあるが、用心しないと疲弊する欧州の二の舞だ。やはり大勢の子どもが野や街にあふれる光景を寿ぐことのできる未来が一番いい。