シルクロードは紀元前2世紀頃から近世に至るまで、ユーラシア大陸を横断するように西と東を結んでいた。1980年に放送されたNHK特集「シルクロード」を見て、壮大な旅にロマンをかきたてられた人も多いのでないか
▼ヨーロッパ、中近東、インド、中国と続く大街道の東側終着点が日本である。運ばれた交易品は金や織物、果物など実体のある物から、学問や宗教、哲学といった文化まで多岐にわたった。最近話題のはんこもその一つなのだという。紀元前3300年頃のシュメール時代に生まれ、日本には推古朝の時代に遣隋使が持ち込んだ。商業文化が花開いた江戸時代に広く庶民に普及したらしい。『ハンコの文化史』(新関欽哉、PHP研究所)に教えられた
▼終着点で行き場を失ったからか、はんこ文化は日本で異様な発達を遂げる。はんこなしでは仕事も暮らしも成り立たない。そんな不自由な制度を徹底させてしまった。ばかばかしいと感じたことのない人は、一人もいないに違いない。河野太郎行政改革相が就任早々、全府省に対し、行政手続きではんこを使わないよう要請した。これまでさんざん見直しの声が上がっていたにもかかわらず、実現できなかったことである。歯に衣着せぬ河野氏ならではの突破力だろう
▼以前見たサラリーマン川柳(第一生命)にこんな一句があった。「回覧が一巡するのに三ヵ月」。コロナ禍の中でもはんこを押すためだけに役所に出る例がかなりあったという。令和の時代に入ってまで、シュメールの知恵に頼り切りというのもどうかしている。