上川調査設計協会が開催した2020年度先端セミナーで、ICT施工やDX(デジタル・トランスフォーメーション)などをテーマにパネルディスカッションが繰り広げられた。パネリストらは実例を参考に、建設業がデジタル化を推進する上で乗り越えるべき課題や人材育成について意見を交わすなど、業界の将来像を探った。
9日に開催したセミナーの一環。北海道産学官研究フォーラムの藤原達也副理事長が「加速するCIMと人材育成」を議題に基調講演した後、パネルディスカッションに移行した。コーディネーターは荒木コンサルティングオフィスの荒木正芳代表が担当。藤原副理事長、北大公共政策学連携研究部兼工学研究院土木工学部門の高野伸栄教授、小樽開建小樽道路事務所の天野繁所長らがパネリストとして登壇した。
情報化施工、DXなどが加速していることに高野氏は、「デジタルという言葉が重要で、デジタル化するということは割り切りをすること」と強調。「従来のアナログ技術では、細かな作業を通じオーダーメイドで構造物を設計してきたが、それをパターン化するのがデジタル化」とした。こうした技術が建築分野で進んでいると説くと同時に「土木でもこの発想を取り入れるなど、受発注者ともに意識を変えていかなければいけない」と述べた。
現場の声を代表したのは小樽開建の天野氏。国土交通省の「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」に採択され、阿部建設(本社・小樽)が施工する5号仁木町町道2番地通橋下部の現場について解説した。鉄筋を組む様子やコンクリート打設、運搬などあらゆるデータを取得し、重機が輻輳(ふくそう)する地点や空白地帯をAIに覚え込ませるなどの試行内容を紹介。トンネル工事で5Gを活用したホイールローダーの遠隔操作を予定しているとし、「将来的には多数の現場を少人数でこなせる日が来るかも知れない」と展望を語った。
情報化施工が生産性向上につながるとする一方で課題に挙がったのが人材育成だ。藤原氏は「自社だけで取り組むには限界がある。最低1人のキーマンを育て、他社と情報交換するなど横のつながりが不可欠」と強調。特に中小企業で実践するには、さらに強固なつながりとするため「フリーディスカッションできる場を構築する必要がある」とした。この見解に天野氏は「人手不足な今だからこそキーマンを配置することでCIM導入が促進するのでは」と賛同。
人材育成は教育現場にも波及する。高野氏は「現在、i―ConstructionやCIMなどの教育は現場で身に付けるのが一般的」「就職後でなければ身に付けられない技術はあるが、もっと間口を低くし、工高や大学で教育を実施しなければいけない」と先を見据えた意見を展開した。(旭川)
(北海道建設新聞2021年2月17日付10面より)