商売人が困るのを見て楽しんでいるのか、ただの気まぐれか。買う気をちらつかせはするものの、実は最初から買うつもりなどないという客がいる。落語「豆屋」はそんなやりとりを面白おかしく描く
▼豆屋が出商いをしていると、一軒の長屋から「いくらだ」とドスのきいた声が掛かる。値を言うと「高すぎる」。値を徐々に下げていっても一向に納得しない。しまいに怒りだし、面前で乱暴に戸を閉めてしまった。あっけにとられて歩き出すと、別の一軒からまた「いくらだ」と声が掛かる。さっきの男より柄が悪い。値を伝えると今度は「安すぎて格好がつかねえ」。豆屋は値を上げていくがやはり男は首を縦に振らない。さんざん要求した後で男が言う。「まあ俺は買わないんだがな」
▼衆院憲法審査会で6日、国民投票法改正案が可決されたと聞き、この噺を思い出した。自民、公明、日本維新の会など4党で案を提出したのが2018年6月。ここに至るまで3年も不毛なやりとりをしていたのである。憲法改正を進める重要な手続きの一つだが、立憲民主党や共産党があれこれ注文を付けては審査会での質疑を拒否していた。最初からやる気がなかったのだ。とはいえ憲法改正に反対でも審議をしないのは議員として筋が通らない。政府のあらを探しては、「高すぎる」「安いのはけしからん」と国民に言い訳をしていたのである
▼立法府の存在意義を疑わせるそんな戦法も限界。今回、立憲民主は案の修正を条件に賛成に回った。やっと買う気になったらしい。最初からそうだとよかったのだが。