「安全とエンタメの融合が夢」
理研興業(本社・小樽)は、北海道の冬道を支える防雪柵の国内リーディング企業。自社で風洞実験設備を持つ強みを生かし、設置延長数は創業65周年に当たる2020年の節目で延べ1100㌔に達した。最近はLEDや蓄光樹脂塗料を使った視線誘導標を開発するなど、次世代の道路安全対策に向けた歩を進める。SDGs(持続可能な開発計画)に前向きで、太陽光や地中熱といった再生可能エネルギーで防雪柵周辺を融雪する研究も展開する。
1949年12月、現在の理化学研究所を母体とした新理研工業、理研商事の北海道営業所として発足。55年、新理研工業が大同製鋼と合併するのを機に「理研興業株式会社」を設立し、本社を小樽市に置く。
雪から交通網を守る防雪柵の歴史は古い。1880年代に鉄道の吹雪対策で使われたのが始まりといわれ、1962年ごろには北海道開発局の建設機械工作所が吹きだめ柵を研究し始めた。これに理研興業も参加し、68年には鋼材の防雪柵の自社開発に成功する。
対策地域の北海道と東北、北陸で60%強の納入シェア率を持つ。最近は東北各地に製造拠点を設け、部品在庫の迅速対応など営業力を強化する。
強みの一つが充実した研究体制で、風洞実験設備と3次元CADを自社保有する。200分の1から30分の1スケールの模型を作って、雪が舞ったり堆積する様子を再現。数値シミュレーションを重ねながら製品開発に役立てている。
PIV(粒子画像流速測定法)という解析技術を備える。粒子を一つずつカウントし、方向や濃度を把握する技術。ハイスピードカメラで高速現象をスローモーション撮影し、コンピューターで数値化することで、防雪柵周りの風雪の流れを短時間かつ精密に解析できる。
飛行機の翼をモチーフにした高性能吹き払い柵や鋼板に無数の穴を設けた多機能遮音柵など、開発製品は多数。中でも誘導板付き忍び返し柵は、反り返った忍び返し部分の上に誘導板を設け、風上から来た風雪の吹き上げ効果を高める。視程障害の緩和領域を飛躍的に広げることができた。
高輝度SMD(表面実装)を防雪柵に取り付けて視線誘導するなど、大雪や吹雪時の視程障害の改善に向けた研究もしている。光るワイヤロープは、LEDと光ファイバーによる発光体をワイヤロープに巻き付けて乱反射させる視線誘導標で、カーブや路肩の位置をライン状に知らせる。
ガードレール用の視線誘導標も開発を目指している。既設ガードレールの凹部分に発光体を取り付け、太陽光発電で電気を作りながら高輝度発光する。同様に発光体をスノーポールや支柱、駅のホームドアなどでも使えないか研究を重ねている。
将来のメンテナンス負担を軽減する技術として期待するのが「理研スピンドル」だ。ワイヤロープを長いボルトに見立て、ナットに当たる回転移動体をはめ込むことで、移動しながら線同士を巻き付け束ねる。
原理を応用すれば屋根の雪庇(せっぴ)を切ったり、船の停泊用ロープに付く藻や貝を取り除けると考える。かごを吊る小規模エレベーターのワイヤロープ点検治具としても使えるとみている。風力や海流を利用した発電システムでも応用が利くと期待を込める。
最近は、シーリング材メーカーのオート化学工業(本社・東京)と蓄光樹脂塗料を開発した。高い耐候性があり、防雪柵やガードケーブルのほか、コンクリート構造物にも塗れる。トンネル壁面などに塗布してブラックライトで照射すれば省電力になるほか、単調な景観にアクセントを付けられ、ドライバーの漫然運転を防いだり、同乗者を楽しませることができると考える。
柴尾幸弘副社長は「道路の安全とエンターテインメントの融合が夢。今後も安全をキーワードに、世の中に貢献する製品を開発・提案したい」と話す。
(北海道建設新聞2021年10月18日付3面より)