カラオケスナックでよく歌われるデュエット曲の一つに、五木ひろしさんと木の実ナナさんの『居酒屋』(阿久悠作詞、大野克夫作曲)がある。歌に覚えのある男性客が店のママを誘い、甘い声を響かせている情景が目に浮かぶ
▼居酒屋でたまたま隣り合った男女が、これも何かの縁と酒を酌み交わす。どうやら質素な所だったらしい。「絵もない/花もない/歌もない/飾る言葉も/洒落もない/そんな居酒屋で」。うるさいBGMや押し付けがましい装飾に邪魔されることなく、思う存分、酒と会話に浸れる居酒屋に違いない。店によって個性はいろいろである。このコロナ禍に大きなしわ寄せを受けたのが思わぬ出会いを楽しみ、仕事の息抜きをするそんな居酒屋やスナックだった
▼17日付の日本経済新聞によると、感染が拡大した昨年以降、全国の飲食店の閉店が4万5000件(ことし8月末時点)に上っているそうだ。日経とNTTタウンページが共同調査で明らかにした。全体の1割に当たるらしい。閉店に伴うタウンページへの削除依頼から算出したという。例年1、2万件の閉店はあるが、この1年はその倍以上。営業制限や外出自粛が影響したと見ている。特に個人店で持ちこたえられず閉店に追い込まれる例が多かったようだ。一体どれだけの生活や街の歴史、経済が犠牲になったか分からない
▼岸田文雄首相はおととい、新橋の居酒屋の飲食店主と意見を交換し、「飲食業は食文化そのもの」と支援を約束した。大切な視点だろう。飾る言葉も洒落もない居酒屋にも残すべき文化がある。