制度終了で立ち遅れの懸念も
道内各地の市町村で新たな役場庁舎が産声を上げた2021年。5月に後志やオホーツク管内で複数の自治体が供用を開始したほか、秋には高台へ移転改築した浜中町で避難道路が開通し事業が終了した。建て替えに有利な起債の活用で相次ぐ完成。一方、制度終了に伴う財政負担増により、事業の立ち遅れが懸念される自治体も出てきた。
大型連休が明けた5月6日、後志管内の倶知安町、ニセコ町、神恵内村で新庁舎が開庁した。築50年以上が経過した既存庁舎を後に、完成間もない行政拠点に業務の場を移した。同日にはオホーツク管内の美幌町と津別町に加え、新十津川町や鹿部町、中札内村でも新庁舎がオープン。地元建設業者を中心とした総力の結集で、各町村の新たな幕開けの一日となった。
近年、自然災害の頻発に伴う防災・減災意識の高まりで、新たな役場庁舎には住民の安全確保が一層求められるようになっている。
避難道路開通で、約4年にわたる新庁舎建設事業が10月に終了した浜中町。一足早く1月に供用を始めた新庁舎は、津波浸水予測の最大遡上高を大きく上回る海抜42mに建てられた。過去の津波被害を踏まえ、高台への移転を選択した上、災害時に多くの避難住民を収容できる機能を併せ持つ。
日本海側の神恵内村も、新庁舎は津波避難を想定した。ただ、高齢者ら災害弱者に配慮し、移転先は津波浸水域内の市街地に。1階に津波を受け流すピロティを設け、2階は津波基準水位7m以上の高さを確保するなど構造的な工夫を施した。
防災拠点としての役割も担う庁舎への建て替え。財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)な道内の自治体にとってハードルは低くないが、その実現に寄与してきたのが、地方債の市町村役場機能緊急保全事業だ。1981年の新耐震基準導入前に建設された庁舎の改築を促す制度で、地方債充当率は90%。相次ぐ「建て替えラッシュ」を後押しした。
しかし、国によるこの財政支援は3月で終了。20年度中に実施設計を終えていれば21年度以降も同様の財政措置の対象となるが、未達の場合は建て替えの地方債充当率が75%まで下がる。
4月、江別市など道内9市が「本庁舎整備に係る起債制度を要望する会」を設置した。いずれも役場庁舎の耐震性に不安を抱える。建て替えなどに向けて新たな財政支援の創設を望み、9月には総務相へ陳情した。
今後も、当面は新庁舎の誕生が実現しそうだ。岩見沢市は近く供用開始を予定し、富良野市や古平町、旭川市でも22、23年度の完成が見込まれる。一方、心もとない財源を理由に、建て替えに踏み切れない市町村は少なくない。支援を訴える地方の声にどう応えるのか。国土強靱化をうたう国の本気度が試されている。
(北海道建設新聞2021年12月15日付1面より)