23年のサービス開始目指す
宇宙ベンチャーの岩谷技研(本社・札幌)は、気球宇宙旅行の実現に向けて研究を加速させる。4日、江別市内に気球工場を新たに開所。岩谷圭介社長は「この場所でフィルムを溶着して気球を作る」として設備の重要性を強調する。2023年のサービス開始を目指すとともに海外展開も見据える。
同社は2016年、個人で宇宙撮影事業を手掛けていた岩谷社長が設立した。ヘリウムガスで浮かぶプラスチック気球による有人宇宙旅行の事業化を目指している。大学や他企業の依頼を受け、宇宙空間での機器動作試験なども手掛ける。宇宙へは約200回の打ち上げ実績を持ち、成功率100%で墜落したことはないという。18年には熱帯魚を高度25kmまで打ち上げ、生きたままの帰還を成功させた。
現在まで計6億円を資金調達し、設備や人員の拡大を進めている。21年11月には本社近くに研究拠点を設け、人が乗るための気密キャビンを主に開発している。従業員は約50人で、岩谷社長の出身校である北大からは20人弱の学生が働く。
4日、JR大麻駅前に気球工場を開所した。ここではプラスチックフィルムを加熱して接合し、キャビンをつるす気球部分を作る。接着剤では耐久性に課題があるため加熱による溶着という方法を選んだ。自社で設計製造したテーブルを長さ30mに並べて作業する。
広さは700m²で、マンションのフロア一部を取得し、改装した。これから人員を雇い、年内に50人規模の製造体制を整える意向だ。
新サービスに向けた研究を進める中、2月には福島県相馬市で最高30mの有人飛翔試験を成功させた。今後は中高度の有人飛翔試験、さらには飛行機の巡航高度を超えた高度10km以上での有人飛翔試験を予定する。23年のサービス開始を目標に掲げていて、最終目標は運賃100万円台での安全かつ訓練不要な宇宙旅行だ。世界初のサービス化を目指す。
気球の特筆すべき長所は安全性だという。「ロケット打ち上げの失敗率は3%。一定のミッション達成には適しているが人命を安定的に運ぶには不向きだ」と岩谷社長は指摘する。
技術的には世界を見回しても「勝者総取り」できるレベルであり、他社の追随を許さないと自信を見せる。キャビン構造や制御系に関する5つの特許を有し、基幹特許を全て取得したという。海外展開を見据えて国外でも申請中だ。