輸出額が3倍近くに
ロシアによるウクライナ侵攻から明日で半年。北海道建設新聞社が財務省の貿易統計を分析したところ、日ロ両政府が相互に経済制裁を実施している中にあっても、本道の対ロシア貿易は大きく拡大していた。特に輸出が全国の動きと逆行して伸び、7月は前年同月比で3倍近い水準に達した。この裏には円安や、経済制裁の意外な影響が関係しているようだ。
函館税関が公開した2022年7月の速報値によると本道からロシアへの輸出額は19億4900万円で1年前の2.9倍、輸入は116億1900万円で6割強の増加だった。
輸出の8割以上を占めるのが自動車で、前年同月比では5.1倍。このほとんどがサハリン経由でロシアに流れる中古車とみられる。全国ベースでは経済制裁を機に対ロ輸出が半減し自動車も例外でない分、本道の急増が際立つ。「欧州経由でモスクワ方面に向かう物流ルートが経済制裁で使いにくくなり、日本と至近の極東ロシアからモノを入れようと、本州の輸出業者が道内港を使い始めた」(ロシア駐在経験のある道内の行政職員)。
中古車は禁輸品に当たらない。ロシアNIS貿易会の斎藤大輔モスクワ事務所長は「ロシアでは欧州自動車メーカーからの新車供給が途絶え、中古車ビジネスが盛んになってきた。日本車は円安で割安感があり、需要がさらに伸びるかもしれない」と解説する。
一方の輸入は、円安で金額が膨らむ要因もあって、エネルギーや水産品を中心に全国、本道ともに前年水準を上回る。ロシアから本道への魚介類輸入額は7月単月で30億円と3割増えた。
侵攻直後には日ロ貿易が極端に縮小するとの予測もあったが、約半年が過ぎ、道内でロシア船が減る現象は見られない。ことし1―6月に小樽港に入港した外国船は昨年の同じ期間より5隻多い116隻で、うち41をロシア籍が占める。根室港に入る外国船はすべてロシアからで、1―6月は219隻と前年を3隻上回る。稚内港も前年と同水準だ。
決済の懸念も一定程度解消されている。春には北海道銀行など多くの金融機関がロシアとの間で送金・着金処理を自粛する動きがあったが、現在、メガバンクを通してやりとりは可能だ。ロシアの有力銀行が国際的な決済ネットワーク「SWIFT」から排除されたものの、ごく一部にとどまる。
ウクライナ侵攻で始まった相互経済制裁がビジネスの現場に与える影響は、絶対的なものではないのかもしれない。(経済産業部 吉村慎司)