工事技術者の育成に有効
独自の奨学金制度を創設し、高校生を支援する植村建設(本社・赤平)が、第1号として認定した卒業生が同社の技術者として働いている。2019年に入社した工事部の山本海斗さん(21)。高校3年生の1年間、奨学金を支給してもらった。奨学生が同社に入社した場合、返済が免除される。山本さんは「手掛けた橋梁がきれいに修復したときがうれしかった」と目を輝かせ、技術者としてのやりがいや魅力を見いだしている。(空知支社・室谷奈央記者)
同社は、13年に土木・舗装工事技術者の育成を目的に独自の奨学金制度を開設した。高校在学中の1―3年生を対象に、無利子で月額3万―5万円を貸与。所得制限などはなく、同社に技術職員として入社することで返済を免除するというものだ。
給付額は、1人当たり年間最大60万円。履歴書と作文による書類選考と面接で対象者を決めている。植村正人社長は「地域に根差した企業として、生徒にやりたいことを諦めてほしくない。学校や社会からの見られ方が企業のメリットになる」と話す。返済に関して、入社後の最低勤務年数は定めていない。
山本さんは、奨学金制度の利用後に入社した唯一の社員だ。2000年12月11日生まれ。芦別市で農業を営む両親の下に、3人きょうだいの次男として生まれた。幼い頃から家業を手伝い、芦別高ではバスケットボール部に所属。「昔から体を動かすことや、ものづくりが好きだった」と話す。
建設業への就職を考えたのは、高校2年生の時。外で体を動かす仕事がしたいと考え、親の勧めもあり技術者を志した。学校での企業説明会で同社の奨学金制度について知り、普通自動車免許の取得費用に充てたいと申請した。
毎月5万円の支援を1年間受け、高校在学中に普通自動車免許を取得できた。当時を振り返り「入社に運転免許が必要な企業が多い。高額な費用を賄えるのはありがたかった」。同社への入社の決め手は「OBが多く、安心感があったこと」だった。
入社後は工事部に所属し、時にICT事業部を手伝うなど実直に取り組み、知識を吸収してきた。2年目には会社の技術者育成制度を活用して札幌市内の専門学校へ通い、2級土木施工管理技士の学科検定を突破した。
現在は、橋梁補修の現場で写真管理を任されている。毎朝5時半に現場事務所へ出勤する生活にも慣れた。入社4年目を迎え、「まだまだ覚えることが多く、厳しく指導されることもあるけれど苦じゃない」と笑う。
同社はことし6月、山本さんの母校である芦別高から企業訪問の生徒を受け入れた。山本さんが現場を代表し、自ら作成した資料を用いて工事概要や建設業の仕事について生徒に説明した。上司の岡崎力次長は「よくやっている。自分より早く出勤して仕事をしている姿には感心する」と仕事ぶりを評価している。
今後について山本さんは「来年の2級土木施工管理技士実地試験に向けて勉強を進めている。若くして現場を任されている先輩方に憧れる。頼られる現場代理人になりたい」と将来を展望する。
植村社長は、近年の採用活動について「少ない人材を企業が奪い合っている状態。特に建設業は人材不足が顕著だ。入社の間口を広げるためにも、奨学金制度は有効だと考えている」と話し、制度の拡充も検討していくという。