子どものキツネが、優しい人間の帽子屋さんに毛糸の手袋を売ってもらう。新美南吉の『手ぶくろを買いに』である。誰もが知る童話の名作だろう。なぜ急に手袋が入り用になったのか。「寒い冬が北方から、きつねの親子のすんでいる森へも」やってきたからだった
▼物語の幕を開ける子どもキツネの慌てた言葉が印象深い。こう言ったのである。「母ちゃん、目に何かささった。抜いてちょうだい。早く、早く」。お母さんキツネがびっくりして確かめたが目に異常はない。実は夜に降った雪で外が一面銀世界となり、お日様を反射した光が洞穴から出た子どもキツネの目を射貫いたのだ。一夜にして季節が冬に変わる。雪こそないものの、ちょうど今日のような日のことだったろう
▼きのうの暖かさがまるでうそのような、きょうの本道の冷え込み具合である。きのうの最高気温は札幌で14度、稚内でも12度だったのに、きょうの予想は札幌で2度、稚内でマイナス2度だという。広い範囲で雪も降るようだ。「あたたかき十一月もすみにけり」中村草田男。残念ながらそういうこと。天気予報によると寒冷前線が通過した後に大陸から真冬並みの寒気が入り込み、あしたからさらに気温が下がるらしい。12月に入ると同時に冬本番というわけである
▼年末に向け公私ともに忙しい時期だ。仕事の追い込みだ買い出しだと席を温めるいとまもない人は多かろう。ここで体調を崩してはいられない。寒さに負けぬようきょうからはしっかりと着込んで出掛けたい。子どもキツネに倣って暖かい手袋も忘れずに。