炭都の歴史伝える遺産、火災の教訓生かし守る
火災の教訓を生かして、しっかり整備し、財政破綻で失ったまちと市民の誇りを取り戻したい―。夕張市は、国登録有形文化財である石炭博物館の模擬坑道を復旧中で、2023年度に防災設備整備を予定している。その一部を寄付金で賄おうと、ガバメントクラウドファンディング(GCF)に取り組んでいる。火災による閉鎖を乗り越え、歴史や文化、この地の誇りを未来につなぐ遺産として、模擬坑道の再開を目指している。(空知支社・荒井 園子記者)
高松7にある石炭博物館の模擬坑道(れんが・RC造、延長180m)は、石炭が採掘された実際の坑道を活用した国内唯一の見学施設として1980年に整備。18年4月には財政再生団体である市の再生の象徴としてリニューアルオープンしたが、19年4月の火災で現在は閉鎖中だ。
再開に向けて、坑道内の堆積物を除去し、坑道内視察を経て、23年度内の再開を目指す方針を決定。復旧事業費は約6億円を試算している。
22、23年度に坑道天盤部補強などの復旧と、電気設備整備などで約4億円。その他23年度に坑道内の温度や湿度、風力の測定、メタンガス濃度の測定などを絶えず監視可能なシステムの導入、万一の発火に備えたスプリンクラー設備の設置などで、約2億円かかる見通しだ。物価高騰により、さらに建設事業費が膨らむ可能性もある。
GCFは使い道に共感し、ふるさと納税制度を活用するクラウドファンディング。自治体が抱える問題解決のため、寄付金の使い道をより具体的にプロジェクト化している。これまで市は夕張高校魅力化プロジェクト、夕張メロン農業の振興施策でGCFを活用してきたが、建設関連事業は今回が初めて。
「ふるさとチョイス」で22年11月7日から寄付の募集を開始。2月4日まで受け付ける。12日現在、目標金額500万円を超える513万3000円に到達。134人が支援した。返礼品は石炭博物館の名前掲示や入場チケット、特別ガイド付きスペシャルツアーなどを用意している。
模擬坑道の休止によって、石炭博物館の年間見学者数はリニューアル時の3分の1以下に激減。地域再生の肝である交流人口や関係人口にも大きな影響を与えている。
法の下での財政再生と地域再生に取り組む市にあって、交流人口の増加や市内経済活性化の視点からも模擬坑道の早期再開は悲願だ。厚谷司市長は「石炭産業の歴史と技術を後世に伝える重要な施設で、かつての炭都夕張の大切な資産」と強調し、プロジェクトの支援に感謝。一層安心・安全な施設を目指し、再開に向けた取り組みを進めている。