問題の大きさに打ちのめされ、どこから手を付けていいか途方に暮れている間に、時間だけがどんどん過ぎていく。人が生きている中で何度か経験することだろう。国にも同じことが起こっているようだ。日本でいえば少子化がそれである
▼かなり前から警鐘が鳴らされていたのに、政府も社会も焦点を定められないまま正面から取り組むのを避けてきた。その結果が現在に至る合計特殊出生率の連続的な低下である。岸田首相が「次元の異なる少子化対策」を打ち出したのは今国会でのこと。そんな経緯もあってか、日本財団が去年12月に実施した18歳前後の男女対象の調査がにわかに注目されている。それによると「子どもを持つと思うか」との問いに、「持つ」と答えた人は「必ず」と「多分」合わせても45.6%。50%に届かなかったそうだ
▼「持たない」も23%と多数派ではないものの、「持つ」が半分以下は将来を悲観するに十分な結果でないか。「分からない」などが31.3%あったのも不穏である。若者は理由なく子どもを持つ選択を排除しているわけではない。障壁を尋ねると、「金銭的な負担」や「仕事との両立」「時間的な負担」が大きいという
▼歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は『パンデミック以後』(朝日新書)で、日本の幻想は「解決策が経済の中にあるように思っている」点だと指摘していた。首相は子育て予算倍増を言うが、お金だけにとらわれてはあぶ蜂取らずとなろう。世代間格差の是正や女性の働きやすい環境づくりといった、社会のありように目を向けなければ。