真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第3回 有限会社想いやりファーム 取締役社長 長谷川 竹彦さん

2009年11月13日 11時32分

 日本で唯一の無殺菌牛乳が北海道で生産されています。想いやりファーム(中札内村)の「想いやり生乳」は、大腸菌が含まれず、生菌数もごくわずかな、加熱殺菌をせずとも出荷できる搾りたての生乳です。そのすっきりとした飲み口とお腹に優しい味わいが、牛乳の苦手な人の間でも評判となり、720mlで1,050円の価格ながら、今では全国有名百貨店をはじめおよそ120店舗で取り扱われ、購入希望の問い合わせも後を絶ちません。この生乳は、無農薬・無肥料・無配合の牧草や飼料、風通しの良さを考慮した扉のない牛舎、細菌が繁殖しにくい砂を敷いた寝床など、牛たちの健康を第一に考えた飼育環境と徹底した衛生管理の下で生まれています。「奇跡の生乳」と呼ぶ声もある想いやり生乳の生産者、長谷川竹彦さんにお話を伺いました。

想いやり生乳は、なぜ加熱処理が必要ないほど、優れているのでしょうか。

長谷川 竹彦さん

長谷川 搾乳は、人間目線の言葉で、牛にしてみれば「授乳」です。つまり牛の乳は、母牛が子牛を育てるためのもの。乳は母親の血液ですから、当然牛も、母親が健やかな日々を過ごし、心身共に良好であれば良い乳が出るということです。そもそも私は、無殺菌牛乳をつくろうなんて思ったことは一度もありません。

 食べ物は、商品でも、人間が生きるための道具でもなく、命そのもの。あらゆる命に上下はありませんが、われわれはその命をいただかなければ存在できない宿命も背負っています。想いやり生乳は、共に生き、われわれを生かしてくれる牛たちが、気持ちよく乳を分けてくれるように、牛たちにとっての幸せを、牛たちの目線で、ひたすら模索し続けた結果です。

そのようなお考えになったのは、いつごろから。

取材風景

長谷川 神戸に住んでいた高校生のころ、淡路島に奇形の猿が出没し、食べ物が及ぼす影響力を意識しました。40数年前といえば、農薬被害が取りざたされ、インスタント食品が普及し始めたころです。思えば「食」を取り巻く環境が一変したのは、ここ40、50年のこと。人間の経済活動が優先されるばかりに、世の中に「安い・簡単・便利」なものがあふれるようになってからです。

 サラリーマン時代に営業職に携わり、1年で赤字を黒字にした経験があります。増益が評価される社会で、ものを売る面白さを知りましたが、同時に、自転車操業のように利益を追求し続けることの意味や、受けの良い言葉で、商品の「こだわり」や「付加価値」を掲げる安易な販売戦略に、疑問を抱きました。

 想いやり生乳は、そのような販売の手法に頼っていません。おかげでうちは、この10年赤字ですが、存続はしています。私のチャレンジは、利益の追求や売るための情報に翻弄(ほんろう)されがちな世の中で、目先を追わず、自然や社会の「ありのまま」の姿を標榜(ひょうぼう)し続けることです。想いやり生乳を通し、本来の乳って何?食べ物って何?命って何?と、気づいてくださる方が少しずつでも増えていく。それが支えです。

想いやり生乳は、長谷川さんが伝えたいこと、そのものなんですね。

長谷川 竹彦さん

長谷川 農業は、生きざまが出る仕事。究極の総合職だと思っています。特に私のような考え方は、お客さまの支持がなければ成り立ちません。うちは、赤字であることも、出荷できない問題が起きた時も、どんな不都合な事情があっても、包み隠さずお客さまに伝えています。すべてをさらけ出して、築いてきたお客さまとの揺るぎない信頼関係に、自信もあります。

 お客さまの中には、年末、お子さんが発熱して何も食べられないから、想いやり生乳を飲ませてあげたいと、泣きながら連絡をくださったお母さんもいました。運送会社の手違いで、店になかなか到着しない想いやり生乳を、孫のクリスマスプレゼントにしたいからと、5時間も待ってくださったおじいちゃんもいました。

 私も、酪農家として、経営者として、毎日たくさんの仕事を抱えていますが、そのような事態には、私が飛行機に乗ってでも、何とかして生乳を届けようと、必死です。大事なのは、1000人に売ることではなく、一人一人のお客さま。私の目標はもうけることではなく、50年後も、100年後も、今のスタイルを維持し、生乳を生産し続け、会社を存続させること。そのために、時には資金繰りにも走り回りながら、こつこつと、ゆっくりとしたペースで、着実に進んで行きたいと思います。

取材を終えて

思いの深さどれほど

 長い間、あり得ないと考えられていた無殺菌牛乳。想いやり生乳が登場しても長谷川さん以外に、無殺菌牛乳を出荷している酪農家は現れていません。生産がいかに困難であるかの証だと思います。思いの深さやご苦労を数時間の取材で、私はどれだけ感じることができるのだろうか…。ひたむきな姿勢に、私自身の安易さを恥ずかしく思いました。語らずとも大切な事を教えてくださる人でした。


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